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2009年11月の記事一覧

ネーミング批評(1) ハイブリット車のイメージを捉えた「プリウス」
ネーミングの批評(2) 焼酎のイメージを変えたかのかの音相
ネーミングの極意(1) イメージはどのようにして捉えたか
  音相システム研究所が行なっている事業
  ネーミングの分析・評価を行います
  「広告コンペに強い」企画書作り
・・・音相分析で生まれるユニークなアイデア
  「コンサルタント」の実例
・・・ことばの「あらゆる悩みと疑問」にお答えします
  ストック商標の再チェックを!
・・・経費節減で見落とされているもの
  音相理論の集大成書
「日本語の音相」および「ネーミングの極意」
をお分けします。

≪ネーミング批評(1)≫ 

ハイブリット車のイメージを捉えた「プリウス」

「プリウス」は、トヨタがエコ機能と走り心地のよさで売り出したスーパー・ハイブリット第一号車です。

この車が車名で表現したいものは「エコ機能の高さ」と「乗用車の高級感や居住性」だといえますが、それらをこの語がどの程度捉えているか見てみようと音相分析をしてみました。

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プリウス
プリウス
(注) 青い棒グラフの読み方
濃い青 ・・・ 「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語
淡い青 ・・・ 「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語
中間色 ・・・ プラス、マイナスどちらにも機能する表情語を示します。

表情解析欄を見ると、「エコ」表現に必要な表情語「N(清らか)、B(進歩的)、O(健康的)、C(新鮮さ)、J(合理的)と、[乗用車の居住性表現」にほしい「P(安らぎ感)、K(特殊性)」の各項に高点が出ているし、それらを裏付けるように「複雑度欄」に高点「5」があるため、高級ハイブリット車らしいムードを捉えた優れた語であることがわかります。

このようなイメージは、逆接拍と無声化母音の使用と、調音種比の高さによって生れたものです。 逆接拍とは子音と母音が明と暗の反対の方向を向く拍(音節)をいい、気品や奥ゆかしさや高級感を伝えます。

また、無声化母音とは、前後の子音との関係で有声音である母音が無声音の響きに変わる母音をいい、高調音種比とは調音種の種類の数が多い語をいいますが、どちらも語にモダンさや開放感、躍動感、新鮮なイメージを作ります。

≪ネーミングの批評(2)≫ 

焼酎のイメージを変えた「かのか」の音相

協和発酵社が始めて「かのか」を売り出したとき、当所の行なった音相分析でこの名が決定されました。  ネーミングを行なう際のコンセプトは、これまでの「焼酎」に感じられた安酒的な雰囲気を上質、モダンなイメージにチェンジさせたいというものでした。

ご意向をうけ、当所では「焼酎」の語に古めかしい安酒のイメージがなぜあるのかを音相分析で捉えることから始めました。

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しょーちゅー
しょーちゅー

「焼酎」の語を分析すると、表情解析欄に「静」のイメージを作る淡青色の表情語「P(安らぎ)、Q(安定)、R(充実)、S(高尚)、T(非活性的)」が並びます。これらは味の深さは伝えるが、モダンさや活性的イメージは伝えません。
  西欧の「リキュール」のような雰囲気を作るには、「都会的」(H)、「新鮮さ」(C)、「活性感」(D)、「派手さ」(E)、「明るさ」(I)などが高点でなければなりませんが、この語ではそれらがすべてゼロ・ポイントになっています。
そこでこのような音相を作っている「逆接拍」と「マイナス輝性語」(有効音相基欄参照)と反対の作用をする「順接拍構成のプラス輝性語」を使わなければならないことがわかりました。
順接拍とは、子音と母音の明るさがともに同じ方向を向く拍をいい、プラス輝性語とは、語全体の輝性がプラス(明るさ)の語をいいます。

すでに候補としてあげてある10語ほどのネーミング案を分析した結果、これらの条件を完全に満たしていたのが「かのか」だったのです。

「かのか」の分析表を見てみましょう。

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かのか
かのか

「特性検出欄」と「有効音相基欄」に見られるように、この語は、総合音価が「+B1.9」のプラス輝性語だし、順接拍構成の語であることがわかります。

この語が持つモダンで和風なイメージが、その後の焼酎ブームをつくったように思うのです。

≪ネーミングの極意(1)≫ 

イメージはどんな方法で捉えたか

明るいことば、穏やかなことばなどと言われるように、ことば(単語)は1つ1つ個有のイメージ(表情)を伝えますが、ことばのイメージを整理すると「明るさ・暗さ」(+Bと-B)と「強さ・弱さ」(Hの程度)の2軸でできていることがわかります。

すなわち、イメージは次の6つの種類に分けられます。

1、明るく、強いイメージ           ( +B と H )

2、明るく、強くないイメージ        ( +B と 非H )

3、暗く、強いイメージ           ( -B と H )

4、暗く、強くないイメージ         ( -B と 非H )

5、暗く、強くないイメージ         ( -B と 非H )

6、明暗いずれでもなく、強くないイメージ ( ±B0 と 非H )

そこで、これらのイメージ(表情)を具体的なことばで捉えるため、国語辞典から感情の含まれている訓読みの単語1,289語を取り出して、意味ごとに上の6種に分けたうえ、それぞれで使われている音相基の種類と、使用の頻度を取出しました。

この表は日本語音声学で用いている「音素表」に、統計的に捉えた各音素のB・H値を記したもので、この表を使うと日本語の音素を次のように表記することができます。

音  素 音素(子音)の構造 表情の方向と量
t(タ行の子音) =前舌音×破裂音×無声音 +B1.4 H1.5
m(マ行の子音) =両唇音×鼻音×有声音 B0.0 H0.0
a(母音「ア」) =有声音 B0.0 H0.0
o(母音「オ」) =有声音 -B0.7 H0,0

またこの表から「タ」や「モ」などの「拍」は次のように表記ができます。
タ=t+a=t(+B1.4 H1.5)+a(B0.0 H0.0)=(+B1.4 H1.5)
モ=m+o=m(B0.0 H0.0)+o (-B0.7 H0.0)=(-B0.7 H0.0)

この値から「タ」は「明るく強いイメージ」を作る音、「モ」は「やや暗く、弱いイメージを作る音」という判断が可能になるのです。 このようにして音相論では日本語の音素や拍(音節)や表情を作る音の単位「音相基」の表情を捉えるのです。

音相基には40種のものがあり音相基が持つ表情を「甲類表情」といいます。甲類表情が捉える表情は、平均的な感性を持つ日本人がその音に感じるイメージの幅や範囲を示すものです。

表情はこのようにして甲類表の表情語で捉えることができますが、言葉が作る表情には甲類表情同士の響き合いから生まれるもおもあります。 それを乙類表情(第3表、参照)と言います。 また表情とよく似たものに「情緒」があります。 情緒は甲類の中にある表情語が、他の表情語と響きあって生まれるものです。例えば、ある語の表情解析欄の高点部分に、「充実感」、「清らかさ」、「特殊感」、「高尚感」「安定感」の表情語があると、これらが互いに響き合って「神秘的」という情緒が生まれます。また表情語「合理的」、「都会的」、「派手さ」、「賑やか」のポイントがいずれも低い場合は「鄙びた感じ」という「情緒語」が生まれるなどです。表情は割合具体的で捉えやすい感情ですが、情緒は表情の奥にある雰囲気や気分(mood)のようなものだといってよいでしょう。 意味をもつ「ことば」の表情は、これらを総合することで、初めて得られるものなのです。

音相システム研究所が行なっている事業

当研究所では、次の事業を行なっています。

1. ことばの科学が対照にしてこなかった「現用されていることば」(商品等のネーミングを含む)に含まれるイメージ(表情)を、客観的な根拠によって解析し、評価を行う種々のプロジェクト。
2. 詩、俳句、小説など文芸作品に含まれるキーワード(主要語彙、フレーズ)などの音相を分析し、作者の創作意図や心性などを解析するプロジェクト。
3. 学術用語、業界用語、俗語、外来語その他、あらゆることばが伝える「イメージ」に関する調査および論評、提案等のプロジェクト。
4. 企業等が保有している大量のストック商標や、懸賞募集などで集めた大量の未発表案から商品コンセプトにふさわしい語を、科学的根拠をもとに抽出するプロジェクト。
5. 姓名の音相を分析して基本性格等を解析するほか、新生児に期待したい性格を入力してコンセプトにかなった名前を推薦する等のプロジェクト。
6. その他、ことばが伝えるイメージに関する分析、論評およびコンサルティング。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

本号、トップの「ネーミング批評」欄などで見られるように、音相理論を使ってことばのイメージを分析すると、個人の感覚や知識では到底捉えられないようなものまで取出しますが、当研究所では次のような分析評価をおこなっています。

(1) 個別評価 ・・・  ネーミングやネーミング案について、「ネーミング批評」欄にあるような細密分析と評価を行なうもの。
(2) ラフ評価 ・・・  大量のネーミング案の中から優良案を短時間で取り出すもの。
 その商品名で表現したいコンセプトをあらかじめコンピューターに入力し、それに大量案を入力して、個々の案のコンセプトの表現度を捉えたうえ、有望案のいくつかを前記の「個別評価」で細密分析して最優良案を推薦するもの。
音相分析と評価の料金表(消費税別)
(1) 個別評価(本評価)
  1語(1分析) 30,000円
(2) ラフ評価
(注) 「ラフ評価」は総語数20語以上で、本評価語数3語以上の場合に行ないます。
・ラフ分析料 50語まで 1語 2,000円
  100語まで 1語 1,800円
  1,000語まで 1語 1,200円
  1,000語以上 1語 800円
・コンセプト調整費     70,000円
・本評価料   1語 30,000円
(3) その他
作業内容等により、コンサルタント料、特別調査費等を申しうける場合があります。

「広告コンペに強い」企画書作り
・・・音相分析で生まれるユニークなアイデア

CM用のテレビ映像や、ネーミングの制作コンペなどの参加される際の企画書に音相的な発想を取り入れると、具体的でユニークな提案が可能になります。

当研究所では種々のコンペの企画書作りのお手伝いをしていますが、独創的な着想による提案が高く評価され、大手代理店が参加するコンペでもトップ採用を頂くことが大変多いのです。

企画料・・・20万円。(ただし当所で提案した企画書がコンペの選に洩れたときは企画料はいただきません。

音相論的な発想から生まれたコンペ用の企画として、次のようなものがあります。

1. テレビCM用映像を制作するコンペの場合

CM画像に出てくる社名や商品名などのキーワードを音相分析し、その語が伝えるなイメージを捉えたうえ、それとの関係から生れるイメージをもとにした映像企画を提案します。

2. ネーミングの制作コンペの場合

大衆はことばの音に対し高い感性を持っていますが、その実態を具体的に捉えた学問はありません。そのためネーミングの専門家でも、音についての評価は個人のカンでしか行なっていないのが現状です。

そのため、多額の費用や時間をかけてもヒット・ネーミングはなかなか生まれないのです。

音相理論を使ったイメージ解析は、別紙の分析と評価例に見られるように、個人の主観を排除した科学的根拠を使って最優良案を選びます。

それが感覚的にも理論的にも他社とは異なる、優れた作品が提案できるのです。

3. 大量のネーミング案から優良作を取り出すコンペの
   場合

収集した大量のネーミング案の中から優良案を選ぶ作業は、これまですべて手作業で行われていますが、選ぶ人の主観や好みによってせっかくの優良作が捨てられてしまう例が多いのです。

当所では、クライアントから伺ったその商品のコンセプトをコンピューターに入力し、それに大量案を入力して個々の案のコンセプト表現度を捉え、上位のものをさらに細密分析して最優良作を推薦します。この方法を用いることで短期間で、客観性の極めて高いものがご提案できるのです。

コンサルタントの実例
・・・行動科学に応用できる音相理論

当所がお受けしているコンサルタントには、以上で上げたネーミングの制作や文芸作品の語彙などのほか、ことばにまつわる種々のものがあります。最近の例として次のものがありました。

○鉄道自殺を減らす新語はないか(大手鉄道事業社より)

鉄道自殺が発生するたび、鉄道会社は多大な被害を受けているそうですが、「自殺を考える人は真っ先に鉄道自殺を考える」という鉄道研究所の心理調査データがあるようです。

「その原因を作る1つに、駅などで行なうアナウンスに多く使われる「人身事故」という語の普及ぶりがあるようなので、この語に代わる新語を考えてもらいたい」というご相談でした。

当所では考えられる日本語の類義語や主要外国語を調査して音相分析を行いましたが、「人身事故という語が的確な意味と極めて優れた音相をもっているところから、たとえ新語を作っても、日本語からこの語を追放することはほとんど不可能でしょう」というレポートを提出しました。

○電話販売で成果を上げることばは何か?
  (某保険会社からの例 )

電話によるセールス(テレマーケティング)を行っているある大手生命保険会社からのものですが、「取扱者に十分な指導訓練を行っても勧誘成績の高い人と低い人と上がらない人がいる。その原因がことばの音が伝えるイメージにあるのではないかと考えてお尋ねした」とのことでした。

この原因は取扱者の仕事に対する向合い方の違いにあるのではと考えた当所では、人の心性や感性面を捉えるのに有効な「音相基」(注)の使用分布を調べることにしました。

(注) 音相基とは破裂音、有声音、多拍、少拍、濁音など、ことばに表情を作る40種類の表情を作る音の単位をいいます。

成績優良者と、不良者30人づつの実録テープを分析して、そこで使われている音相基を捉えた結果、やはり大きな違いがあるのがわかりました。

即ち成績優良者は、硬いイメージを伝える破裂音系(パ行、タ行、カ行)の音 の入ったことばを多く使い、成績の上がらない人は、ソフト・ムードで穏やかに伝える摩擦音、流音、鼻音などが多いことがわかったのです。

この調査により、音相などに関心のない一般の人たちでも、音が伝えるイメ ージには機敏に反応し、それにより商品への信頼度を高めたり、「保険加入」という大きな決断までしていることが明らかになったのです。

その保険会社ではその後、この調査結果を元に取扱者の訓練や新規採用テスト要綱などを改正されたようでした。

ストック商標の再チェックを!
・・・経費節減で見落としているもの

バブルのころ、各企業では将来発売される商品のため、ネーミングを商標登録する施策が広く行われました。

その種のものがいま企業内でストック商標となって大量に保管され、商標権維持のため特許庁に毎年多額の更新料を支払っています。

商標登録の申請は、化粧品、薬品、衣料品、食品、電気製品、コンピューターなど45の「区分」ごとに行ないますから、無関係と思える区分にも同じ名称で申請するため、45区分の半分くらいの個所に申請する例も少なくありません。

認可をうけた商標は、10年ごとに一区分48,500円の更新料を支払いますから、100語を20区分に登録している会社では、10年ごとに9,700 万円(年平均970万円)の支出となります。

この費用は企業内で問題になりながら、ネーミングの価値を客観的に評価できる理論や技術がなかったため、やむなく支出をしていました。

だがストック商標の中で、将来使用に耐えるものがどれほどあるかが問題です。

当研究所が調査したところでは、保有をしても成果が期待できないものが三分の一以上あることが明らかになっています。

そこでこれら商標の、評価の見直しが必要となるのです。

「当社ではその種の調査は実施済み」とお思いかもしれませんが、真に有効なネーミングとして使えるかどうかを商品コンセプトとの関係で客観的に評価できる技術は「音相解析法」をおいてほかにありません。

未使用商標の実態(推測)とその活用例

この解析法はOnsonicソフトを用いて次の方法で行います。

ストック商標を商品コンセプトごとに分け、個々のコンセプトをコンピューターに記憶させたうえ、そのグループの商標名を入力して1語ごとのコンセプト表現度を数値によって取り出すものです。

分析した結果、その商品に適さないものは他の商品や他事業部へ回してヒット・ネーミングになった例がありますし、社内で利用できないものはそれなりの対価を得て社外へ譲渡することも可能です。

音相理論の集大成書
「日本語の音相」および、「ネーミングの極意」をお分けします。

「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊、)および「ネーミングの極意」(同著、筑摩新書刊)はすでに絶版となっていますが、当研究所に余部がありますのでお分けします。本書の内容はこちら

郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、誌名」をメールでご連絡(こちら)いただけば郵便でお送りします。

頒布価額(送料とも) ・・・ 「日本語の音相」 2,850円
  「ネーミングの極意」 1,000円

【読者の感想】

●詩歌の音楽性を明らかにした画期的快著

日本の伝統的詩歌において不毛だった音楽性の重要さを解明された画期的な研究です。俳句の実作者としても、深く琴線に触れるものがありました。

短歌や俳句の音韻面については、折口信夫の『言語情調論』などはあってもまだ不十分で、「調べ」という曖昧な概念から抜け出ておりません。先生の「音相理論」はそれを闡明されたものと考えます。

「俳句スクエア」代表、五島篁風 (医師)

●音相という素晴らしい世界を知りました

「日本語の音相」、深い感動をもって読みました。

音相を知らずに日本語の鑑賞や評論などできないことをしみじみ知りました。目の覚めるような感動でした。

(富山、日本語研究グループ hirai)

ネーミングの分析・評価を行います