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2009年3月の記事一覧

ネーミング批評(1) 太宰は「グッドバイ」という語をなぜ選んだのか
・・・音相分析が捉える、言霊(ことだま)の世界
ネーミングの極意(1) 現代人のことば感覚
・・・音の良いことばとは何か
ネーミングの極意(2) 音相論はなぜ日本語から生まれたのか
  ネーミングの「分析・評価」を行います。
  音相理論の集大成版
「日本語の音相」および「ネーミングの極意」
をお分けします。

≪ネーミング批評(1)≫ 

太宰は「グッドバイ」という語をなぜ選んだのか
・・・音相分析が捉える、言霊(ことだま)の世界

「グッドバイ」ということばを聞くと、入水心中した小説家・太宰治の遺作の題名が浮かびます。

60年も前の、新聞に掲載し始めて10日ほどで終りになった未完の作の題名が今も人々の心に残るのは、心中という特殊な事件性には関わりない何かがそこにあるように思えた私は、この題名がどんなイメージを持った語かを見てみようと音相分析をしてみました。

文芸作品の題名や登場人物名などのキーワードには、作者の思い入れや、ことばにならないメッセージが多く含まれていてたいへん参考になるからです。

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グッドバイ

表情解析欄を見ると、情緒的なものを表す表情語「高級感、清潔感,静的、安定感、高尚さ」 と、ユーモア感を表す「庶民的、活性的、動的、シンプル、派手、軽快感」 などがともに高点に出ているため、この語が太宰風のロマンとユーモア感を象徴的に捉えたことばであることがわかるのです。

次に、太宰の中にたゆたっていたはずの別離の思いを、「さようなら」でなく「グッドバイ」で表したところに、その心象に近づく鍵があるように思えたので「さようなら」の分析もしてみました。

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さよーなら

表情解析欄をみると、この語にも「静的、安定感、高尚さ」に高点があり、「グッドバイ」とほとんど変わらぬ情緒表現がありますが、ユーモア感の表現は「グッドバイ」に見られるような明白さはありません。

また情緒解析欄を比べると「さようなら」には「ためらい感、穏やかさ、神秘的、夢幻的、不思議な感じ、孤高感」など多くの情緒語が並びますが、「グッドバイ」には「別れ」にまつわる情緒語が不思議なことに何も出ていません。

表情解析欄に情緒を表す語が高点にあれば、情緒解析欄でも多くの情緒語が出るはずですが、「グッドバイ」にはそれがまったくないのです。

表情欄と情緒欄がこれほど矛盾した語はたいへん稀(まれ)ですが、それはさまざまな情感のせめぎ合う複雑なイメージを伝える語であることを示しているもので、「グッドバイ」は寂しさや虚脱感や爽やかさなどを、おどけた顔で表現しているようなことばなのです。

この語を太宰が見つけた時のときめきが、私には聞こえてくるような気がするのです。そして太宰の音相感覚の鋭さをそこに見るのです。

未完の作の題名がいつまでも人々の心に残るのは、「グッドバイ」ということばの音の音相が太宰そのものと深いところで通じていることを、多くの人が心に感じているからではないでしょうか。

そこに私は、時空を超えた「言霊」の世界を見るのです。

音相論は、言霊を捉える技術といってもよいでしょう。

(注)青い棒グラフの読み方

表情解析欄にある青色の棒グラフ、「濃い青」、「薄い青」、「中間の青」は、イメージの方向性を見るために設けたものですが、次のような違いを示すものです。
濃い青 ・・・ 「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感など陽(プラス)の方向を向く表情語。
淡い青 ・・・ 「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、複雑で非活性的な陰(マイナス)の方向を向く表情語。
中間の青 ・・・ プラス、マイナスのどちらにも機能する表情語。

≪ネーミングの極意(1)≫ 

現代人のことば感覚
・・・音の良いことばとは何か

大正から昭和の初めにかけて「ランデブ-、銀ブラ、モボ、モガ」などということばが流行(はや)りました。

これらはどれも、自由の時代を迎えた若者たちの思いがこもったことばですが、音の面から捉えるとどれもが濁音と有声音ばかりでできた、暗く重たいイメージが伝わることばです。

意味(内容)と音のイメージがこれほど矛盾する語が何の疑問も持たれずに 10数年も流行り続けたということは、当時の人がことばの音にいかに無関心だったかがわかるのです。

それに比べ、現代人の音への関心の高さはどうでしょうか。

今、日本中で愛されている流行語「カッコいい、超、デパ地下、ダサい、ヤバイ、ちょろい、がめつい」などは、どれをとっても意味や雰囲気にふさわしい音でできているし、「ルイヴィトン、ディオール、アルマーニ、ティファニー」など、意味を持たない人の名前のブランド名が音の響きの良さだけで破格のヒットをしていたり、音の響きのよくない「ビッグ・エッグ、DIY(ディ-アイワイ)、WOWOW(ワウワウ)、E電、JA」などは、発表になったその日から口にする人がいないなど・・・数えあげればきりがありません。

最近、漢字の読めない人が増えています。

しかし彼らは、字が読めず意味がわからなくてもさほど不便を感じていないのです。それは彼らがことばの音からイメージを捉える感性をもっているからです。「厳格」ということばの意味や文字を知らなくても、この語の音が伝えるイメージで厳しさや威圧感「のようなもの」を感じ、「アネモネ」が花の名と知らなくても、音から伝わるイメージで「暖かくやさしい何か」を想像できるからなのです。

そのような感性をもつ現代人は、どういう音を「音の良い語」と聞くのでしょうか。

今の人は音の流れの良さだけでなく、ことばの意味や商品にふさわしい音をもった語を音の良い語と感じるのです。「爽やか」な意味を持つ語には爽やかさを感じる音を、「あいまい」な意味を持つ語はあいまいさを感じる音をもっていなければ音の良い語とは見てくれないのです。

「シャネル」という語の人気が高いのは、この語の音があのブランドにふさわしい「高級、優雅、気品、爽やかさ」などを感じる音の要素を多く含んでいるからです。

ネーミングがその商品の雰囲気にふさわしい音でできていると、その商品への共感や親近感を覚え、それが心地よい記憶となって心の中に残るのです。

ネーミングは優れた音を持っていなければならない理由がそこにあるのです。

≪ネーミングの極意(2)≫ 

音相論はなぜ日本語から生まれたのか

音相論は、ことばのイメージ(表情)を数量的に捉えたデーターを元に、あらゆることばのイメージを分析し、評価してゆく技術ですが、このような研究はまだどの分野でも行なわれておりません。

それがなぜ日本語を対象に開発され、体系化が可能になったのか。

その理由として、次のことが上げられるように思います。

(1)日本語が純度の高い言語であったこと。

漢字、ひらがな、カタカナ語が混在している現代語を見ると、日本語は外国語の影響を大きく受けているかのように見えますが、わが国は他民族の支配や干渉をうけなかったことと、先人たちの知恵と努力で言語の基本となる統辞構造(語の順序)や文法、音韻などが高い純度のまま保たれてきたからです。

例えば英語の形容詞「Beautiful」が入ってきた場合、日本語ではこの語の語尾に形容動詞の定形の活用「な、だ、で、に、なら」をつけて受け入れます。

そのため、原語「Beautiful」は形容動詞の語幹、すなわち名詞的な機能として受け入れているにすぎないのです。

漢語の場合も同様で「巧緻」(こうち)という語はその語尾に形容動詞の活用「だろ、だっ、で、に、な、なら」をつけ、元の語「巧緻」は形容動詞の語幹(名詞)として受け入れていたから、他品詞などへの影響はなかったのです。

そのため日本語で外来語が増えるということは、語彙(単語)が増えて表現が豊かになるというプラスはあっても、マイナスになるものはほとんどなかったのです。

このような外国語の受け入れ姿勢は、音韻についても見られました。

「京」(チン)や「両」(リャン)という中国語風の音韻は、やまとことばの音韻になじまないため、「チン」は「キョー」(どちらも破裂音系)、「リャン」は「リョウ」(どちらも流音)に、「トゥオ、フィエ、ティア」などは「ト、へ、チア」のように翻案し、西欧語の音韻も「f(ファ)行音」はハ行音、「V(ヴァ)行音」はヴァ行音に、「ti、tu」音は「チ、ツ」音のように、原音と同系統の調音種を使いながら日本語的な音韻に読み替えながら受け入れていたのです。

(2)日本語が開音節語であったこと。

日本語で「音相論」の体系化を容易にした次の理由に、日本語が「拍」を認識しやすい開音節の言語だったことがあげられます。

開音節語とは拍(音節)の終わりに母音をともなう言語のことで、日本語のほかイタリー語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ポリネシア語などがありますが、その中でも日本語は完全形に近い開音節語といわれています。

日本語は「拍」の区切りが明白なため、アイウエオなど五十音が持つ個々の表情や、拍の単位で生まれる「逆接拍、順接拍、無声化母音、濁音、促音、勁輝拍・・・」などの表情を容易に捉えることができたのです。

(3)音節(拍)が妥当な数であったこと。

音相論の体系化が日本語で容易であった今1つの理由に、日本語の音節(拍)数が適宜な数であったことがあげられます。

日本語の拍は五十音図にある音のほか、拗音、濁音、半濁音など合計138の音がありますが、子音で終わる音節が多い閉音節の言語(英語、ドイツ語、ロシア語など)では、音節の区切り方に一定の法則がありません。

英語の場合でも、音節(Syllable)の数は学者によって「1,800」、「3,000以上」、「10,000以上」などとまちまちですが、表情語の数はわずか20種と少ないため、音節数が1,800以上にもなると同じ表情をもつ音節が多数となり、脳内での識別が困難になるのです。

日本語はあらゆる言語音を138という少ない数で集約できるところに、音相的発想を可能にし、個々の表情把握を容易にした大きな理由があったといえるのです。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

音相システム研究所では、「ネーミング批評」欄に出ているようなネーミングの分析と評価を行なっています。

当初で行うことばやネーミングの分析評価には、次のような種類のものがあります。

(1) 個別評価 ・・・  このサイトの「ネーミング批評」欄にあるような細密分析と、その根拠および対応策などについて述べるもの。
(2) 総合評価 ・・・  大量のネーミング案の中から優良案を短時間で取り出すもの。その商品等がもつコンセプトをコンピューターに入力したうえ、大量案を入力して個々の案のコンセプト達成度を捉えたうえ、高点にある少数の案を前記(1)の「個別評価」で分析して優良作を取出すものです。
音相分析と評価の料金表
(1) 個別評価(本評価)
  1語(1分析) 30,000円
(2) ラフ評価
(注) 「ラフ評価」は総語数20語以上で、本評価語数5語以上の場合に行ないます。
・ラフ分析料 50語まで 1語 2,000円
  100語まで 1語 1,800円
  1,000語まで 1語 1,200円
  1,000語以上 1語 800円
・コンセプト調整費     70,000円
・本評価料   1語 30,000円

音相理論の集大成版
「日本語の音相」および、「ネーミングの極意」をお分けします。

「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊、)および「ネーミングの極意」(同著、筑摩新書刊)はともに絶版となっていますが、当研究所に若干余部があるのでお分けいたします。本書の内容はこちら

郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、誌名」をご連絡(こちら)いただけば郵便小包でお送りします。
(頒布価額「日本語の音相」2,850円、「ネーミングの極意」1000円・・・送料とも)

【読者の感想】

●詩歌の音楽性を明らかにした画期的快著

日本の伝統的詩歌において不毛だった音楽性の重要さを解明された画期的な研究です。俳句の実作者としても、深く琴線に触れるものがありました。

短歌や俳句の音韻面については、折口信夫の『言語情調論』などはあってもまだ不十分で、「調べ」という曖昧な概念から抜け出ておりません。先生の「音相理論」はそれを闡明されたものと考えます。

「俳句スクエア」代表、五島篁風 (医師)

●音相という素晴らしい世界を知りました

「日本語の音相」、深い感動をもって読みました。

音相を知らずに日本語の鑑賞や評論などできないことをしみじみ知りました。目の覚めるような感動でした。

(富山、日本語研究グループ hirai)

ネーミングの分析・評価を行います