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2009年2月の記事一覧

ネーミング批評(1) 「ウィット」(WIT、スズキのワゴン車)を分析する
・・・促音効果の出すぎで消えた「優美感」
ネーミング批評(2) 100円ショップのイメージを捉えた「セリア」
ネーミングの極意(1) 「音相」ということばの世界
・・・それは日本人が持つことば感覚です
ネーミングの極意(2) 「ことばの科学」には限界がある
  ネーミングの「分析・評価」を行います。
  音相理論の集大成版
「日本語の音相」をお分けします。

≪ネーミング批評(1)≫ 

ここに上げた「批評文」と、あなたが感じたものの間にいくらか違いが出るはずです。

個人が捉えた直感には、無意識に主観や好みが入るため、「大衆の平均的感性」で捉えた音相分析とは違いが必ず出るのです。

個人の直感で捉えたものから、いかにして主観の部分を取り去るか、そこにヒット・ネーミングが生まれるかどうかの微妙な分かれ道があるのです。

「ウィット」(WIT、スズキのワゴン車)を分析する
・・・促音効果の出すぎで消えた「優美感」

「ウイット」のコンセプトを調べてみたら「スタイリッシュなエクステリアと、上質なインテリア」と出ていました。

そこでこの語がこれらのコンセプトをどの程度捉えているかを見てみようと音相分析をしてみました。

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ウィット

表情解析欄をみるとクルマのメカ的特性を表現するのに欠かせない表情語「強さ、鋭さ、シンプル、動的、活性的、個性的、合理的、軽快感、若さ」(L、A、D、K.、J、F、G項)がいずれも上位に出ているし、コンセプトバリュー欄では「高い若者指向」と「スピード感」を明白に捉えた語であることがわかります。

また、表情語のポイント数の最高を50.0と低めに抑えたため、それぞれの表情語がもつケバケバしさが消え、奥行きや重厚感に変わっており、「スタイリッシュなエクステリア」を見事に捉えた語であることがわかります。

だがこの語の問題点は、「上質なインテリア」を大事な柱に据(す)えながら、その表現に必要な表情語、「優雅感」(S.項)と「高級感」(R項)のポイント数が余りに低位にあることです。これらが低く出た理由は、この語が少拍(3拍)のため、強さ、明るさムードを強調する促音の効果が出すぎたことにあったのです。

≪ネーミング批評(2)≫ 

100円ショップのイメージを捉えた「セリア」

100円ショップのブランド名「Seriaセリア」が、一般にどんなイメージで聞かれているかを見たいので音相分析してほしいとのご依頼が、ブランド・コンサル・エージェンシー「アクサム・コンサルティング社」からありました。

この語を制作した時のコンセプトは、「(1)庶民性、(2)プラス思考と明るさ、(3)客の笑顔、(4)クリーン感と公平感、(5)発展性と挑戦的、(6)情報性、(7)開放感」だったとのことでした。

「セリア」をコンピューターに入力したら、次の分析結果が現れました。

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セリア

表情解析欄を見ると、「庶民性」をトップに7つのコンセプト表現に必須の表情語が、次のように高点で捉えられているのがわかります。

(1) 庶民性・・・(M項、庶民的から)
(2) プラス思考、明るさ・・・(A項、シンプル感),(E項、にぎやか),(L項、鋭さ),(D項、活性的),(M項、庶民的),(F項、軽やかさ),(O項、健康感),(G項、溌剌さ)の各項から
(3) 客の笑顔・・・(M項、庶民的),(E項、賑やかさ),(F項、軽やかさ),(G項、溌剌さ)の各項から
(4) クリーン感、公平感・・・(M項、庶民的), (J項、合理的),(I項、開放的),(A項、シンプル感),(F項、軽やかさ)の各項から
(5) 発展的、挑戦的・・・(A項、シンプル感),(E項、にぎやか),(L項、鋭さ),(K項、個性的),(D項、活性的)の各項から
(6) 情報性・・・(A項、シンプル感),(K項、個性的),(J項、合理的),(D項、活性的)の各項から
(7) 開かれたムード・・・(I項、開放的),(M項、庶民的),(A項、シンプル感)の各項から

また情緒解析欄には「情緒的、穏やかさ、純粋さ、素直さ、大らかさ」が出ているし、コンセップト・バリュー欄では「若年層(男女)に愛される」を捉えており、100円ショップのイメージが必要十分に表現された語であることがわかります。

「セリア」にこのようなイメージが生まれたのは、音(拍)の数を3音節(拍)の清音構成(注)にしたことが成功の要因だったことがわかるのです。

(注)清音構成とは、濁音の入らない語をいいます。

≪ネーミングの極意(1)≫ 

「音相」ということばの世界
・・・それは日本人が持つことば感覚です

「音相」とは何か

「青い海」ということばを聞くと、絵具のチューブから搾ったままの原色の青を感じますが、「ブルーの海」からは、黄色や黒などがわずかに混じった複雑な青の色がイメージできます。

「桜」という語を辞書で引くと、「野山に自生し、春先薄紅色の花を咲かせる落葉樹、日本の国花」と出ています。これはこの語の概念、つまり意味を述べたものですが、そういう意味とは別に「明るさ、爽やか、穏やか、あでやか、大らかさ」などがイメージとして伝わってきます。

また、「赤」と「黒」、「甘い」と「辛い」、「強い」と「弱い」、「明るい」と「暗い」、など反対の意味をもつことばには、それぞれの意味にふさわしい音をもっているのを感じます。

このようにことばは意味だけでなく、イメージを伝える働きもしていることがわかるのです。

ことばの意味は文字によって正しく伝わりますが、イメージは「音」が中心で伝わるので、ことばの音が伝えるこのようなイメージのことを「音相」と呼んでいます。

イメージは音で伝わるから、意味が同じことばでも音が違えば違ったイメージを伝えます。

「ピンク」と「桃色」は意味はどちらも同じですが、「ピンク」という音からは「明るさ、可憐さ、モダンさ」などが、「桃色」からは「穏やかさ」や「優雅さ」などのイメージが伝わります。そのため、赤ちゃんの頬を言うときは「桃色」というよりも「ピンク」と言うほうが、また老人の頬を言うときは「ピンク」よりも「桃色」というの方が、それぞれの頬の様子がより実感的に伝えることができるのです。

また、「感覚」と「センス」は意味はどちらも同じですが、「感覚」には格調的なものを感じるし、センスには軽いひらめきのようなものを感じます。そのため、「感覚がよい」はほめことばとして使えるが、「センスが良い」はほめことばにならない場合もあるのです。

私たちはこのように、1つ1つのことばのイメージを意識しながら言語生活を行なっているように、音が伝える作るイメージは、意味に劣らぬ働きをしていることがわかるのです。

このような言葉の音に対する感覚は、日本人の誰もが同じような形で持っているもので、それは先祖伝来うけついできた遺伝子のようなものといてもよいでしょう。

ある人が気の利いたことばを使うと、アッという間に全国へ広がって流行語になったり、初対面の人同士がいきなり機微にわたる会話ができるのも、そこに音相という共有的な感性があるからです。

≪ネーミングの極意(2)≫ 

ことばのイメージ研究の特殊性

ことばが伝えるイメージは、このように意味に劣らぬ働きをしていますが、日常語が持つイメージの研究は、どの分野でもまだまったく行なわれておりません。

言語音が作るイメージに関しては、紀元前4世紀、ギリシャの哲学者へラクレートスが一部の語音について述べた記録があるようですが、その後これらはフィジズ説と呼ばれ種々の研究がされていたようです。

現在では言語学の意味論の中で「象徴論」として扱われていますが、そこで行なわれているのはすべての音が対象ではなく、特殊なイメージを作る音に限られているうえ、抽象的なことばでしか述べられていないため、日常語が伝えるイメージを具体的なことばで表現するようなことはできません。

わが国にも鎌倉時代に、僧仙覚が提唱し、江戸期において鴨真淵、本居宣長、橘守部などの国学者によって引き継がれた「音義説」というのがありました。

この説は、「アは顕わるるさま」、「サは清らかなるさま」など、日本語のすべての音節(拍)のイメージを対象にしてはいますが、「ア」の」音を「顕わるるさま」と限定するため、暗い意味をもつ「穴」という語の「ア」の説明はできないし、「サ」を「清らかなるさま」と定めているため「ドサクサ」の「サ」は説明できないなど、普遍的なものではなかったのです。

これら諸説に見られる欠陥は、臨機応変、複雑に機能していることばのイメージを「音素」や「音節(拍)」という表層的な単位で捉えたところに基本的なミスがあっ たのです。

音節とは日本語で言えば「ア、カ、サ、タ、ナ・・・」の50音や濁音、拗音(キャ、キュ、キョ、ニャ、ニュ、ニョ・・・)それに特殊音素(促音、撥音、長音)をいいますが、意味を持つことばのイメージを捉えるには音素や音節の一段奥にある感覚要素が 含まれる「音相基」で捉えなければならなかったのです。

例えば「t」は音声学でいう音素ですが、t(トゥ)のイメージを捉えるには、この音を成り立たせている「破裂音」「前舌音」「無声音」という感覚的なものを含んだ 単位で捉えなければならないのです。

これらを調音種といいますが、イメージを作る音の単位には調音種のほかにも無声化 母音、逆接拍、順接拍、多拍、小拍、輝性、勁性、など合計40種のものがあります。

これらを音相基と呼んでいます。

すなわち音相基は、ことばの表情をつくる音の最小単位ですが、音相基が持つ表情を甲類表情といいます。

意味のある「ことば」からイメージや表情をとりだすには、まずそこに含まれている音相基の表情(甲類表情)を捉え、音相基同士の響きあいが作る表情(乙類表情)を捉え、さらに表情語同士の響きあいから生まれる「情緒」をとらえ、それらを総合判断することで初めて「ことば」の表情は捉えられるのです。

ことばがもつ「イメージ」は、感性面が含まれる音相基を捉えたことで初めて把握が可能になったのですが、この理論は言語学、心理学、音声学その他言語関係科学の面 と、文芸その他感性的なものとのはざまで成り立つところに、音相理論の特殊性とむずかしさがあるのです。

すなわち、感性部分が多く含まれるため学問的取り組みの対象にはなりにくいし、文芸面やネーミングなどことばの実用面からは、その複雑さが敬遠されて、どちらからも取り組みのないままで置かれているのが現状です。

この宿命的ともいえるものをどのように調和させるか。長年取り組んだ実験結果を振り返って、十分とはいえないながら、その限界の近いくまでたどり着けたように思うのです。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

音相システム研究所では、ネーミングの分析と評価の業務を行なっています。

(1) 個別評価 ・・・  ことばやネーミングが伝えるイメージを、精緻にわたって分析し評価を行います。
(トップの「ネーミング批評」欄、参照)。
(2) 総合評価 ・・・  大量にあるネーミング案から優良案を短時間で取り出します。
 そのネーミングで表現したいコンセプトをあらかじめコンピューターに入力し、つづいて大量案を入力して個々の案のコンセプト達成度を捉えたうえ、高点が出た中の少数を、(1)の「個別評価」で細密分析して優良作をとりだします。
音相分析と評価の料金表
(1) 個別評価(本評価)
  1語(1分析) 30,000円
(2) ラフ評価
・ラフ分析料 50語まで 1語 2,000円
  100語まで 1語 1,800円
  1,000語まで 1語 1,200円
  1,000語以上 1語 800円
・コンセプト調整費     70,000円
・本評価料   1語 30,000円
(注) 「ラフ評価」は総語数20語以上で、本評価語数5語以上の場合に行ないます。

音相理論の集大成版
「日本語の音相」をお分けします。

音相理論を集大成した「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊、)はすでに絶版となっていますが研究所に余部があるのでご希望の方へお分けします。本書の内容はこちら

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(定価2,850円、送料等は無料)

【読者の感想】

●詩歌の音楽性を明らかにした画期的快著

日本の伝統的詩歌において不毛だった音楽性の重要さを解明された画期的な研究です。俳句の実作者としても、深く琴線に触れるものがありました。

短歌や俳句の音韻面については、折口信夫の『言語情調論』などはあってもまだ不十分で、「調べ」という曖昧な概念から抜け出ておりません。先生の「音相理論」はそれを闡明されたものと考えます。

「俳句スクエア」代表、五島篁風 (医師)

●音相という素晴らしい世界を知りました

「日本語の音相」、深い感動をもって読みました。

音相を知らずに日本語の鑑賞や評論などできないことをしみじみ知りました。目の覚めるような感動でした。

(富山、日本語研究グループ hirai)

ネーミングの分析・評価を行います