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2008年4月の記事一覧

ネーミング批評(1) 「ヤフー」と「グーグル」のイメージ差
…ディテールは音相分析でしか捉えられない
ネーミング批評(2) “可能性を秘めた車”「bB」(ビービー)
…いま1つ足りないメカ表現の工夫
ネーミングの極意 「広告コンペに強い」企画書作り
…選に洩れたらコンサル料は頂きません
  俳句・「花散て また閑(しず)かなり
園城寺(おんじょーじ)

…音相分析が捉えた「響き」の真意
  音相とは何か
…音でしか表現できない世界がある

≪ネーミング批評(1)≫ 

「ヤフー」「グーグル」のイメージ差
ディテールは音相分析でしか捉えられない

これらの語に何となくイメージの違いを感じても、それをことばで言い表すのはたいへん至難なことといえましょう。

だが音相分析を行うと、それぞれの語がもつイメージの違いを明白なことばを使って取り出すことができるのです。

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ヤフー
グーグル

(注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示します。

濃い青 ・・・ 「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
淡い青 ・・・ 「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。
中間の青 ・・・ プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。

ヤフー(YAHOO)

表情解析欄を見ると、「シンプル(A)」、「派手(E)」、「軽快感(F)」、「活性感(D)」など、明るく単純なイメージを作る「陽」の表情語を高点に置き、それに続いて「信頼感(Q)」、「非活性感(T)」、「高級感(R)」など、複雑、多様なイメージを作る「陰」の表情語を並べた、はば広い表現域をもった語であることがわかります。

この語は3つの音(3拍)でできています。

3拍以下の語を少拍語といいますが、少拍語は音の数が少ないから単純なイメージしか伝えない語が多いのですが、この語はわずか3拍でこのような複雑、多様な内容を伝えているところに顕著な特徴があるといえるのです。

このような表現域と奥行き感をもつ語を見つけた制作者の音相感覚は見事というほかありません。

グーグル(GOOGLE)

「ヤフー」とは反対に、表情解析欄のトップのところに複雑多様なイメージを作る「陰」の表情語、「静的(G)」、「信頼感(Q)」、「充実感(R)」、「優雅さ(S)」を置いたあと、明るくメカニックなムードを作る「陽」の表情語、「派手(E)」、「シンプル(A )」、「新奇さ(C)」、「進歩的(B)」を並べています。

この語は、ソフトな表情語が高点部分にあるため、情緒解析欄に多くの情緒語が出ているところに「ヤフー」との大きな違いが見られます。

「ヤフー」と「グーグル」は、共に「陽」、「陰」両面を捉えながら、「ヤフー」は技術のイメージを作る「陽」の方に、「グーグル」は情緒を作る「陰」の方に軸足があるのも大きな違いといえましょう。

だが、2つの語の間には顕著な共通点があるのです。

それは、表情語の最高ポイント数をどちらも60以下と低めに抑えたところです。最高ポイント数を抑えると、語全体から単純さや軽薄感が消え、代わって重厚感や存在感が生まれます。

両語はそういう効果を使って、共に存在感や社格の高さを表現しています。

いずれ劣らぬ、見事なネーミングといってよいでしょう。

ネーミングの分析・評価を行います

≪ネーミング批評(2)≫ 

“可能性を秘めた車” 「bB」(トヨタ車)
・・・いま1つ足りないメカ表現の工夫

トヨタの小型大衆車で、「bB」は、「未知の可能性を秘めた箱」(Black Box)からつけた名前です。

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bB

「未知の可能性」や、「夢」、「期待感」などをことばの音で表現するには、情緒解析欄に「神秘的」、「不思議な感じ」、「普通でない感じ」、「夢幻的」などの情緒語が出ていなければなりませんが、それには表情解析欄の「安定感(Q)」、「充実感(R)」、「優雅さ(S)」、「静的(T)」などが高点であることが必要です。

分析表を見ると、これらのどの項にも高点が出ているので、「未知の可能性」を表現している語のように見えますが、ここで捉えた「可能性」は心情的なそれであり、クルマにほしいメカニックな可能性ではありません。

メカ的な可能性を表現するには表情解析欄の「躍動感(B)」、「活性感(D)」、「現代的(H)」、「合理的(J)」などが高点でなければなりませんが、分析表で見られるように、それらはどれもゼロポイントになっていて、その種の表現を持たない語であることがわかります。

心情的な可能性を捉えていればそれ以上は求めるまでもないと思われるかもしれませんが、高い音相感覚を持つ現代人はこの程度の異和感にも鋭く反応する感性をもっているし、それは大衆がネーミングの良否を採点する際のモチベーション(動機ずけ)にもなっているのです

この語がメカ的な表現を欠いた理由は、「有効音相基欄」が示しているように「濁音および逆接拍の多用」と、「調音種比の低さ」があるからです。

逆接拍とは、子音と母音の明るさ(B値)が+と-の反対方向を向く拍(音節)をいい、ここでは「ビ」音(B+i・・・-と+)が該当します。それが2拍(50%・・・標準は23%)も入っているからです。

また、調音種比とは拍数に対する調音種の種類の数を見るもので、4拍語の標準は4音種ですが、この語には破裂音と両唇音の2音種しかないからです。

ネーミングの分析・評価を行います

≪ネーミングの極意・シリーズ≫ 

「広告コンペに強い」企画書作り
・・・選に洩れたらコンサル料は頂きません

CM用の映像や、ネーミングの制作コンペに提出される企画書に音相的な手法を用いると、ユニークで具体性の高い企画書が作れます。

当研究所ではテレビCMやネーミングの制作など、種々のコンペの企画書作りのお手伝いをしていますが、新鮮さと具体性が評価されて、大手代理店が参加するコンペでもトップ採用を頂くことが多いのです。

(当所がご提案した企画がコンペの選に洩れたときは、企画料はいただきません。)

音相的な配慮の方法はコンペの種類によってまちまちですが、割合多い例を上げてみましょう。

1. テレビCMの制作コンペの場合
   CMの中で使用される社名や商品名の音相を分析し、その語が大衆にどのようなイメージで伝わっているかを捉えたうえ、それをより深く印象づけ、また音相的に欠陥がある語の場合は、欠陥のカバーも考慮した映像案を提案します。
2. ネーミングの制作コンペの場合
   本サイトのトップに出ている「ネーミング批評」欄や、別欄「音相分析表と評価文の実例」」をクライアントにお示しして音相分析の有効性をご理解いただいたうえ、同じ理論にもとずいて優良案を取り出す方法を提案します。
3. 大量のネーミング案から優良作を取り出すコンペの場合
   社内外から集めた大量のネーミング案から優良作を選ぶ作業は相当な期間と費用がかかりますし、選ぶ人の主観や好みによって、初期段階で優良作が捨てられる例も少なくありません。
 当研究所では、新たに開発したソフトを使って次のような大量評価を行っています。
 クライアントが必要とするコンセプトをあらかじめコンピューターに入力したうえ、大量の案を音相分析して個々の案のコンセプト表現度を取り出すもので、この方法で優良作を取り出すことをコンペで提案します。

以上についての詳細は、電話またはメールでお問い合わせください

ネーミングの分析・評価を行います

俳句・
「花散て また閑(しず)かなり 園城寺(おんじょーじ)」
・・・音相分析が捉えた「響き」の真意

上島鬼貫(かみしまおにつら、1661~1738年)の作。

鬼貫は、芭蕉と並び称された同時代の俳人ですが、生涯門人を持たず、孤高に生きた人といわれています。

ぎよう水の 捨てどころなし 虫の声

おもしろさ 急には見えぬ 薄(すすき)かな

など、秀句も多いようですが、冒頭句もそういう1つといえましょう。

桜が散って、再び「歴史」の中へ沈んでゆく古寺の風情を詠んだものですが、古寺に見られる永遠感と、「おんじょうじ」という音が伝える暗く重たい寂寥感とが共鳴して、不思議な感動が伝わってくる句です。

寺の名がもし建長寺(けんちょうじ)や浅草寺(せんそうじ)であったら、また趣きの違う句になっていたことでしょう。

それは、寺の名の音に含まれる音相基と、その音相基が作るイメージを捉えて見れば明らかです。

「おんじょーじ」 ・・・ 音相基に有声音、逆接拍、オ音が多い
→重々しさ、永遠感のほか、暗さや寂寥感が伝わる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(  )
「せんそーじ」 ・・・ 音相基に有声音、逆接拍、母音種が多い
→ 重々しさ、永遠感のほか、人間的な温もり感が伝わる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(  )
「けんちょーじ」 ・・・ 音相基に無声破裂音系と無声拗音が多い
→ 明るさ、清らかさや透明感が伝わる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )

「けんちょーじ」には明るさや透明感を作る無声音が多いため、存在感や重厚感を作る有声音中心の他の2句とは反対方向の句であるため、ここでの比較からは外れます。

そこで、同じ音相基(有声音、逆接拍)と「重々しさ・永遠感」のイメージを共有している「おんじょーじ」と「せんそーじ」の比較となりますが、「せんそーじ」は母音の種類が多いため人間的な温もり感があるのに対し、「おんじょーじ」は「オ」音が多く、暗さや寂寥感があるため、後者の方が句のこころに近い響きを持った寺の名であることがわかるのです。

松尾芭蕉は、句論の中で「響き」の大切さを説いていますが、「響き」とは耳ざわりのいい音の流れを言うのでなく、句の「こころ」にふさわしい音を持つ語を選ぶ「才華」のことだと思うのです。

音相理論を用いると、具体的な根拠を使ってその説明ができるのです。

ネーミングの分析・評価を行います

音相とは何か
・・・音でしか表現できない世界がある

ことばは意味を伝えるだけでなく、意味の周りを取り巻くイメージを伝える働きもしています。「桜」という語は辞書にでているような意味のほかに、この語が周りにもっている「艶(あで)やかさ、爽やかさ、大らかさ」などのイメージも同時に伝えます。

イメージはほとんど音によって伝わるので、これをことばの「音相」と呼んでいます。

音相は日本人の誰もが同じように感じる感性といえますが、音響感覚の発達している現代人は、ことばの音の良し悪しを聞き分ける高い感性をもっています。

そのことは意味のわからない外国語や世俗的な流行語でも音の響のいいものは進んで取り入れられるし、それが瞬く間に全国へ拡がるなどを見ても明らかです。

現代人は、桃色(ももいろ)という音は落ち着いた穏やかな音、意味が同じ「ピンク」の方は、明るさ、可愛らしさのある音であることを知っています。そのため赤ちゃんの頬は「ピンクの頬」、老人の頬は「桃色の頬」と使いわけてもいるのです。その方がそれぞれの頬の状態がより実感的に伝わることを知っているからです。

このようにことばの音は意味に劣らぬ働きをしているのですが、これらを究める学問はありません。心理学や言語学に「象徴」という理論がありますが、ことばにはイメージ(心的映像)を伝える働きがあることを抽象的に説いただけで、1つ1つのことばが作るイメージを解明するなどのことはできません。

音相論はことばの音が作るイメージと、それを伝える音の構造(音相基)の関係を、音声学や心理学、言語学などを借りて明らかにしたものです。

イメージは感覚的なものが多いため学問と異なるものではありますが、音相の面からことばを見ると、文字中心で考えられていたことばの奥に、別の秩序が存在することがわかるのです。

ネーミングの分析・評価を行います