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2008年2月の記事一覧

ネーミング批評(1) 「美肌」は美しいことばか・・・
大衆はこんな見方でネーミングを評価する
ネーミング批評(2) 「チョイ悪るおやじ」の面白さ
・・・音相基の組み合わせが作った隠された笑い
ネーミングの極意 ネーミングの「分析・評価」を行います。
  音相理論はなぜ日本語から生まれたのか

≪ネーミング批評(1)≫ 

「美肌」は美しいことばか
・・・大衆はこんな見方でネーミングを評価する

「美肌」という語は、女性の肌や色香を思わせる美しい意味と文字とを持つことばです。

だが、そういうことばであるにもかかわらず、この語を商品名に使ってヒットした記録はどこにもないし、テレビなどでこの語を声に出して言っている例も聞きません。

そのわけは、この語が意味と文字だけの美しさで、現代人にとって大切な「音」にはむしろ醜さを感じるものがあるからです。

そういえば、一昔前この語のことを「聞いただけで、肌がざらざらになりそうなことば」と言った著名な学者がおりました。

何時の時代でも、ネーミングにおける意味や文字の働きの大きさに変わりはありません。

商品の特徴などを意味や文字で伝えられれば、商品イメージは具体的になり、覚えやすくもなるからですが、音響感覚が発達した現代人の眼で見ると、意味や文字がどんなに良くても音が伝えるイメージが悪ければ、ネーミングとしての評価はケタ違いに下がるのです。

「ビハダ」という音には、なぜ「ざらざら」感があるのでしょうか。

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美肌

表情解析欄の上位を見ると、「充実感」「暖かさ」「優雅さ」など美しさを作る表情語はありますが、「美肌」の表現に欠かせない「清らかさ、爽やかさ」「新鮮さ」「清潔感」、「明るさ」などがすべてゼロポイント付近であることと、情緒解析欄に美肌と反対のイメージを作る「不透明感」や「あいまい感」などが多く含まれているからです。

個人々々を総称したことばに「大衆」という語があります。

大衆とはとりとめない存在のように思えますが、その大衆が平均的にもっている感覚的な価値観は、前記の音相分析で見られたように、きわめて冷静、賢明であることがわかるのです。

この音相理論を立論するに当たって、イメージの良否を判断する基軸に「大衆の平均的感性」を選んだ理由もここにあったのです。

≪ネーミング批評(2)≫ 

「チョイ悪るおやじ」の面白さ
・・・音相基の組み合わせが作った隠された笑い

チョイ悪るおやじとは、一部にガキっぽさが残っているおやじのことだそうですが、この語に感じる「おかしさ」は意味的なもののほか、音の仕組みの面にもあるように思えたので、それを捉えてみようと音相分析をしてみました。

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チョイ悪おやじ

表情解析欄を見ると、「おやじ」と「ガキ」を作っている表情語が次のように対立しているのがわかります。

(1)「おやじ」を作る表情語

暖かさ 40.9ポイント  
非活性的 30.0ポイント  
安定感 27.3ポイント  
充実感 25.0ポイント  
高尚さ 18.2ポイント 合計 141.4ポイント

(2)「ガキ」を作る表情語

鋭さ 25.0ポイント  
個性的 21.4ポイント  
単純さ 16.7ポイント  
若さ 12.5ポイント 合計 75.6ポイント

合計数は「おやじ」2、「ガキ」1の割合になっていて、この語の音が「おやじのくせにガキが抜けない人」の心の内側を見事に捉えているのがわかります。

また、それを作ったのは「有効音相基欄」(ここでは省略)の

オヤジ(陰のムード) ・・・ 「有声音と、逆接拍(子音と母音の明るさが反対の拍)」
ガキ(陽のムード) ・・・ 「破裂音、イ音、高勁輝拍(明るく強い音)」

という、反対方向を向く音相基の組み合わせであったこともわかるのです。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

音相システム研究所では、企業等からのご依頼をうけ、社名、ブランド名、商品名などの「分析と評価」を行なっています。

分析と評価の実例は、毎号トップ・ページで掲載していますが、「ネーミングとことば・分析評価例」欄にも多数見られますので、ご参照ください。

  音相理論は
    なぜ日本語から生まれたのか

音相理論はことばの音が作るイメージ(表情)を数量的に捉え、それを元にネーミングやことばの分析評価を行う技術ですが、このような研究は世界的にまだどこでも行なわれておりません。

言語学の意味論の中で一部扱われてはいますが、抽象的な把握で終っているうえ、特徴的な一部の音だけが対象のため、現用されていることばのイメージの解明などはできません。

そのような理論がなぜ日本語において立論が可能になったのか。その理由として、私は次の3つをあげています。

 

(1)日本語が体系的な言語構造を持っているうえ、他言語の影響をほとんどうけていないかったこと。

日本語の祖語「やまとことば」(和語)は、統辞構造(ことばの順序)や文法、音韻など、言語の基本となる部分に外国語の影響をうけることなく、独自の表現法が高い純度で受け継がれてきました。

その後の日本語は漢語、ひらがな、カタカナ語が混在し、外国語の影響を大きく受けているように見えますが、外国語が多数移入されても「名詞」の数が増えただけで、言語の基本部分への影響はほとんどないのです。

たとえば「Beautiful」という形容詞が入ってきても、日本人は「ビ ューティフル」のあとに「な、だ、で、に、なら」の定型の活用語尾をつけ、原語「Beautiful」は形容動詞の語幹、すなわち「名詞」としてしか使われておりません。漢語の場合も、「優美」という語はその後に「だろ、だっ、で、に、な、なら」の定形の活用をつけて形容動詞化し、「優美」は形容動詞の語幹、すなわち名詞としてしか機能させていないのです。

すなわち、日本語で「外来語が増える」という現象は、新たな語彙(単語) が増え、日本語の表現がより豊かになったというプラスはあっても、言語の基本体系を乱すものではないのです。

 

(2)日本語が開音節語であったこと

「音相論」という理論の体系化が日本語で初めて可能になった次の理由として、日本語が開音節語であったことがあげられます。

開音節語とは拍(音節)の終わりに母音が伴う言語のことで、日本語以外にもイタリー語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ポリネシア語などがありますが、日本語はその中でも完全形に近い開音節語といわれています。

日本語は「拍」の意識が明白なため、拍を単位とする表情「逆接拍、順接拍、無声化母音、濁音、促音、勁輝拍・・・」などが捉えやすくなり、語や文の音相把握が容易になります。

その反対の、子音どまりの音節が多い閉音節の言語(ドイツ語、ロシア語、英語など)では、音節の区切りが不明瞭なため、音相を捉える対象が無数に近い数になります。

 

(3)日本語の音節(拍)の数が、音相を捉える上で適宜な多さであったこと。

日本語で音相の把握を容易にした今1つの理由に、表情を捉える単位となる拍(音節)の数が合計138拍という極めて手ごろな数であったことがあげられます。

ちなみに、英語の音節数は区分法の違いによって、学者により「1,800」、「3,000以上」、「10,000以上」などとまちまちですが、表情を作る音の単位が1,800以上にもなると、脳内のイメージ識別機能が限界を越え、音節単位のイメージ(表情)把握は不可能となります。

日本語はあらゆる音声を138という手頃な数で把握できることが、音相論の成立を可能にした大きな理由だったといえるのです。