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11月の記事一覧

19年11月10日号

≪ネーミング批評(1)≫ 

「キャンキャン」(小学館)
・・・正しく対象を捉えてはいるが・・・

「男性にモテたい女性の雑誌」といわれているように、相当派手めなファッション誌です。
  分析表の表情語欄を見ると、「庶民的・活性的」をトップに立て、「個性的、現実的、若さ、軽やかさ、賑やかさ、明るさ、都会的」がそれに続いています。

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キャンキャン

またゼロポイント部分を見ると、高尚さや優雅な落ち着きムードを作る「信頼感、充実感、高級感、優雅さ、静かさ」などの表情語はいずれもゼロとなっていて、そういうムードなどとは無縁の若い現代女性を適切に表現する音を持った語であることがわかります。それはコンセプト・バリュー欄で、圧倒的に若者向きのネーミングであることからもわかります。

このように雑誌の内容と題名から伝わるイメージがピタリと一致しているため、一度聞いたら忘れられない強い印象をもつネーミングといえましょう。

だがその内容があまりに単純で直截(ちょくせつ)的で余情や雰囲気のようなものがまったく見られないため、一面では落ち着きのなさや頼りなさのようなものを感じます。

若い女性といっても、この語が表現するほど割り切れていない人が多いことも考慮に入れると、女性一般が持つ情緒的な音をわずかでも加えておくことがネーミングとしてはベターだったといえましょう。

≪ネーミング批評(2)≫ 

イマも輝いている焼酎「かのか」のネーミング

「ほのかな香りと味のよさ。女性も気軽るに飲める麦焼酎・・・」というのが「かのか」(アサヒビール・製造元・協和発酵)がネーミング制作時にイメージされたコンセプトです。

分析表の表情解析欄を見てみると、「かのか」という音がそれを見事に表現しているのがわかります。

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表情解析欄をみると「庶民的で明るく派手で活動的」という誰にも親しまれる表情語をトップにおき、続けて、「軽快感、都会的、強さ、躍動感、若さ」などが並んでいます。

また、特記事項欄では「ユーモア感、現代感」、情緒解析欄では伝統の酒をいみする「クラシック感」を捉えていて、装い新たに発売されたイマ風の焼酎というイメージを的確に表現したネーミングであることがわかります。

だいぶ昔になりますが、このネーミングを決めるとき、当研究所が最終的な音相選択の段階でご協力させていただきましたが、いま見ても新鮮で、輝かしさがまったく失せていない優れたネーミングだと思うのです。

≪ネーミング批評(3)≫ 

「月桂冠」「三越」の音相比較
・・・漢字ネーミングの使い方

明治のころから、日本酒の代表的銘酒とされていた「月桂冠」というネーミングの音相を分析すると、表情解析欄のトップの部分に、

活性的 60.0
軽さ 54.5
シンプル感(単純さ) 50.0
庶民的 50.0

が出ています。(分析表は省略します)

それはこのネーミングが「庶民的な軽い飲料」というイメージを強く打ち出していることを示していますが、銘酒の名に欠かせない「高級感、優雅さ、爽やかさ、安らぎ感」などの表情語がすべてゼロになっていて、コンセプトの音響的表現に、相当偏りのある語であることがわかるのです。

このネーミングは意味と文字だけを考える時代に作ったもののため、一般の音感覚が発達しが現代では、音の偏りが気になるのです。 だが、同じ漢字全盛の時代に作ったものでも、新鮮さを失うことなく生き続けているネーミングも少なくありません。

「三越」の場合を見てみましょう。

この語の表情欄のトップの部分は

爽やか 150.0
活性的 90.0
現代的 87.5
開放的 80.0
明白性 66.7
個性的 64.3

が並んでいて、最近作ったネーミングと錯覚しそうな、明るく活き活きした音を持っているのがわかります。

漢字という古風な文字を使っていても、店の実体を矛盾なく表現した音さえあれば、いつの時代にも人々の心にみずみずしさを伝えることばになるのです。

漢字ネーミングの使い方の秘訣が、そこにあるのです。
その例をデパート名から拾うと、高島屋、松屋、松坂屋、伊勢丹などがあります。

【ネーミングの極意・シリーズ】

ネーミングにとって「音」はなぜ大切か

人々のことばの音に対する感覚は、近年見違えるほど発達しました。それは「カッコいい、しらける、超、即、激辛、フェラガモ、シャネル・・・」など、大流行していることばの音相を分析すれば明らかです。

そして音相のすぐれたことばは、メディアの力を借りてアッという間に全国に広がりますし、「E電、ビッグエッグ、ワウワウ、DIY、FIFA、JA・・・」のような音相の良くない語は、どんなにメディアなどで宣伝しても進んで口にする人はいないのです。

ネーミングの制作者たちは、現代人のこのようなことば感覚が発達している事実を見落としてはならないのです。

これまでのネーミングは、意味的なものが中心で作られていましたが、大衆の音相感覚が高度に発達した現在では、意味の工夫や配慮がどんなにあっても、音が伝えるイメージのよくないことばは相手にされないのです。

だがネーミングの制作現場では、音についての研究は不思議なことに、どの会社でもまったく行なわれておりません。

ネーミングの送り手は昔ながらに意味中心で制作し、受け手の「大衆」はそれを音の良し悪しで評価をする。この明白なすれ違いが、多額の費用をかけながらヒット・ネーミングが出にくくなっている大きな原因といえるのです。

Q.  ネーミングにおける意味の役割は?

ことばが、音中心の時代に入ったことが痛感される昨今ですが、今後、ネーミングにおける「意味」の役割をどのように考えたらよいのでしょうか。

(skc.m)
A.

何の意味ももたない西欧のブランド名でも、「音」が良いだけでヒット・ネーミングになる時代となりましたが、ネーミングにおいて意味的な配慮が大事なことは何時の時代も変わることはないと思います。音の良さに加えて「意味」的なものが加われば、ネーミングが作る効果はさらに高まるはずだからです。

「セ・リーグ」、「パ・リーグ」の「セ」、「パ」は、「セントラル」「パシフィック」という意味があるから、「Aリーグ」、「Bリーグ」のような記号でいうよりはるかに効果は大きいですし、こんな僅かなものでも意味の要素が加わるとネーミングは覚えやすくもなるのです。

だが、意味のあるネーミングは商標登録が通りにくいという現実がありますから「意味」の概念は拡げる工夫が必要となるはずです。

「ホカロン」の「ホカ」で暖かさを連想させたり、「ペプシコーラ」の「ペプ」で炭酸飲料の感触を伝えるなど、「意味的表現法」の研究は、今後さらに進んでゆことでしょう。

軽い否定の接続詞がほしい
 ・・・音相論から見た現代語の欠陥

文章を書きながら時々不便を感じるのは、日本語に「軽い否定の接続詞」がないことです。

軽い否定の接続詞とは、意味的な軽さと共に、音相的な軽さが必要で、それには音(拍)の数の少ないことが条件となります。

「国文法の研究」(今泉忠義著、旺文社)によれば口語の場合、「逆接の接続詞」(否定へと続く接続詞)として、次のものが上げられています。

しかし、しかしながら、だが、だのに、だって、だけど、けれど、けれども、ところが、ですが、が、それでも、でも、ただし、もっとも

だが、「・・・が」や「だが」は、少拍ではあるが音価(BH値)が高いため大げさな逆接になってしまうし、「しかし」「しかしながら」「けれども」「だけど」などは、多拍なうえ否定が明白でありすぎます。

英語には次のように肯定、否定どちらにも使える「等位接続詞」と、明白な否定に続く「従属接続詞」があるようです。(講談社刊「英和辞典」)

等位接続詞 ・・・ but,yet, still(stillはbut,yetよりやや強い)
従属接続詞 ・・・ however,though,although,while,even,
if,wrether,or,no-matter,what,how

私が今の日本語にほしいのは、英語の等位接続詞のように否定、肯定どちらにも使えるような接続詞です。

それは、次のような場合に使える接続詞です。

「but」の例
Oh, but it’s awful (まあ、でも恐ろしいこと・・・)
Excuse me, but your coat is dusty (失礼ですが、貴方の上着に埃がついてますよ)
「yet」の例
The story is strange ,yet (it is) true (奇妙に聞こえるが本当なんだ)
The work is good ,yet it could be better (仕事はよくできたが、まだよくなる余地がある)

日本語はカナを使って、不十分ながらどんな外国語の音韻でも表記ができますし、膠着語の利点を活かして複雑微妙なことも表現できるが、いま1つほしいのは「このような否定にも肯定にも使える曖昧な接続詞」だと私は思うのです。このような発見は、音のイメージを捉える音相理論を通して気づいたものなのです。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

音相システム研究所では、商標やネーミング案の分析と評価を行っています。

これまですでに4,000語以上の分析評価を行ってきましたが、分析表と評価文の実例をいくつか別欄であげておきましたので、ご覧ください。

また、大量にあるネーミングから優秀作を選び出したいときは、ラフ分析法を適用すると、次のように分析料が大幅に低減されます。

★主な分析評価料    (注・いずれも消費税を含みません)
(1) 本評価料  (1語ごとに本評価をおこなうもの)
  1語 30,000円
(2)ラフ評価料 (大量の案から少数の優良案を取り出すもの)
・コンセプト設定料 1コンセプトごと 70,000円
・ラフ分析料 1語ごと 2,000円
参考 料金計算例(ラフ評価+本評価の場合)
(例1)コンセプト数1、ラフ評価語10語、本評価語3語の場合 ・・・・ 190,000円 
(すべてを本評価で行なったとき ・・・・ 300,000円)
(例2)コンセプト数1、ラフ評価語20語、本評価語5語の場合 ・・・・ 260,000円 
(すべてを本評価で行なったとき ・・・・ 600,000円)
(例3)コンセプト数1、ラフ評価数100語、本評価語10語の場合 ・・・・ 260,000円 
(すべてを本評価で行なったとき ・・・・ 3,000,000円)

【次回予告】12月1日