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7月の記事一覧

2007年7月10日(火)

●「マック」と「マクド」
・・・東京・大阪人の感性の違い・・・

バーガーショップ、「マクドナルド」は東京では「マック」、大阪は「マクド」と呼ばれています。
 同社に電話で聞いてみたら、この名は会社がつけたものでなく、お客の間で自然に生まれ広まったものということでした。
 そうなると、これらの音の違いから東京人と大阪人のことばの好みが見えるのではないかと考えて、音相分析をしてみました。
(注) 青い棒グラフの読み方
 濃い青・・・「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
 淡い青・・・「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。
 中間の青・・・プラス、マイナスどちらにも機能する表情語。
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「マック」を見ると、「表情解析欄」のトップに次の表情語が並んでいます。
 「活性的(D項)」、「現代的(H項)」、「合理的 (J項)」、「進歩的(B項)」、「軽快感(F項)」、「シンプル感 (A項)」
 このことから、「マック」は東京人が好む「合理的で、現代好みで、かっこよさ」を作る音でできたことばであるのがわかります。
また「マクド」の場合は、次のうす青色の表情語が並んでいます。
 「静的、 (T項)」、「充実感」(R項)」、「安定感 (Q項)」、「暖かさ (P項)」、「優雅さ(S項)」
 ここからは大阪人が好む「ややクラシックで大らかな情緒」を作る音でできたことばであるのがわかります。
 このように、土地の人が好むことばの音を分析すると、住む人の心根や生活感覚などがはっきり見えてくるのです。
次に、ネーミングとして、どちらが優れているかを見てみなければなりません。
 バーガー店のネーミングとして何より表現したいコンセプトは「若者的」環境と「気安さ、簡便さ」だといえますが、ネーミングとしての良し悪しは両語がそれらをどこまで表現しているかで決まるといってよいでしょう。
 表情解析欄を比べると、高級レストラン的イメージを作る薄青色のグラフの多い「マクド」より、若さや活力感を作る濃青色の表情語が多い「マック」の方が、バーガー店のイメージをより印象的に伝えているのがわかるのです。

●「評価文」についてのご注意
・・・主観を強く出す人はネーミング制作には不向き

音相分析表に出ている「評価文」は、読んだ人が感じたものと異なる場合があるはずです。
 それは、大衆の平均的感性で捉えた評価文と、主観や好みがはいった個人的な感想との違いといってよいでしょう。
 音で感じるイメージは、どうしても個人の好みや主観が入ります。それはことばの専門家といわれる作家や詩人などでも例外はないようです。
 だが音相分析で捉えたものは、個人の好みや主観をいっさい捨てたもので巣から、多くの人に高い評価の得られる客観性の高いものだといえるのです。
 個人が持つ主観や好みは、その人の人格や個性の核となる重要なものですが、大衆の感性をベースに考えねばならないネーミング制作においては、個人の主観や好みをいかにして捨てるかが大事な修行となるのです。

貫禄と存在感のビール名、「バドワイザー」

このビールは東欧ボヘミアが原産地のようですが、その味の良さから世界一の販売量を誇っているようです。
 このネーミングがそういうビールのコンセプトをどの程度捉えているかを見てみようと、音相分析をしてみました。
画像をクリックすると大きくなります。
表情解析欄では「派手さ、シンプル感(単純さ)をトップに立て、ビールの表現に欠かせない庶民性や、高級感、充実感」を高点に並べ、複雑度欄の「やや複雑」や情緒解析欄の「クラシック感」などをくわえて、ビールが作るさまざまな世界を幅広く、適切なバランスで表現した優れたネーミングであることがわかります。
そのようなイメージが、この語のどこから生まれたのか。
 それは有効音相基欄(省略)が次のことばで捉えています。
「高調音種比、順接拍多用、濁音多用、マイナス高輝性、有声音多用」
高調音種比とは調音種の種類が多い語のことを言い、賑やかさ、明るさ、軽やかさなどを作ります。
 順接拍とは子音と母音がプラスまたはマイナスの同じ方向を向いた拍を言い、単純でさっぱりしたイメージを作ります。
また、マイナス高輝性とは、マイナスBの値が標準より高い語を言います。6拍語の場合の輝性値の標準は-B2.1なのですが、バドワイザーはそれが-B6.4もあるのです。

●【俳句】 七月や 雨脚を見て 門司にあり
 (藤田湘子) 

 俳句作家小林恭二氏は、「七月を詠んだ句の中でもっとも好きな句」と前置きして、この句について次のコメントをしています(産経新聞、日曜俳句欄)。
「なんとなくアンニュイ(退屈)な感じがある。
 それはおそらく旅先で、なすことなくただ雨脚を見ているというイメ-ジからきている。
 ついでそのアンニュイの質である。アンニュイといってもいろいろある。
 男性のアンニュイ、女性のアンニュイ。若もののアンニュイ、老年のアンニュイ。このアンニュイはその中で言えば青年もしくは壮年のアンニュイであろう。
 それはひとえに「七月」の語感によっている。
 七月ということばには強さ、明るさ、絶頂に向かう勢いなどが最初から含まれている。
 だからわたしは青壮年期の男性をイメ-ジするのだ。
 ちなみに同じ七月でも「文月」になるとまた違う。
 「七月や」のかわりに「文月や」をおいてみたらいい。
 するとこの句の登場人物は、青壮年期の男性から一転して中年すぎの落ち着いた女性になる。」
「しちがつ」…明るさ、強さの値(音価…+B3.7 H8.1)が極めて高いため、「非常に明るく、非常に活性的」(甲類37 項)な音をもつことばであることがわかる。
 そのためこの語からは、10代後半から30代前半ぐらいの男性がイメージできる。
「ふみづき」…輝性(明るさの値)が低い(+B0.3)うえ、鼻音と摩擦音系が多いため、「穏やか、安らぎ、優雅」(乙類21項)の音相を持っている。
 そのためこの語には「七月」よりも奥行きのあるアンニュイ、人で言えば中年以上の女性のそれが感じられる。

●所長がFM東京に出演

FM東京のラジオ番組「Wonderful World(出演・茂木淳一、小山ジャネット愛子、永田実)に6月18日、木通所長が出演しました。
 音相理論のあらましや理論開発の経緯などの話のあと、当日の番組のテーマだった「ポッチャリ」という語と類義語の「ふっくら」の音相の違いなどについての話がありした。
 放送後、多くの方から研究所に質問などの電話やメールを頂ました。