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6月の記事一覧

 

●「東京メトロ」を分析する・・・
都市空間は伝わるが、人の息吹が聞こえない

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 表情語を見ると「活性的(D項)」、「軽快感(F項)」、「安定感 (Q項)」、「充実感」(R項)」、「合理的 (J項)」、「高尚さ (S項)」などが高点で並び、大都市らしいイメージを捉えた語であることがわかります。
 中でも「活性的(D項)」とその反対方向を向く「非活性的(T項)」が、最高点で並んでいるため、矛盾した価値観がひしめく都会の「複雑さ」と、その裏側にある空虚感を捉えた語であることがわかります。  「活性」と「非活性」の対立は、他の都市名にも多く見られるように都会を表現するうえで極めて大事な要素といえましょう。
 この語の場合、その他の面からも都会の「複雑さ」が捉えられています。
 それは、表情解析欄の最高ポイント数を30.0と低く抑えたことと、子音と母音の明るさ暗さが反対方向を向く「逆接拍」を異常に多く持っていることです。
 最高ポイント数を50以下に抑えると語全体の表情語が圧縮されるため複雑さが生れますし、逆接拍が全拍数の23%以上あるときにも生まれます。(この語では7拍:4拍=57%)
 この語の音には、これら3つが含まれるため「複雑さと空虚感」がとりわけ強く伝わってくるのです。
 このような手法を用いて都会感を表現したところに、作者の非凡な音相感覚が見られるのですが、この語に物足りなさを感じるのは、メトロをとりまく「人間」がイメージ的にほとんど表現されていないことです。
 はじめに上げた「都会感を捉えた表情語」にわずかに「軽快感(F)」や「高尚さ(S)」が見えますが、「暖かさ (P項)」、「若さ (G項)」、「明るさ (I項)」のポイントが低いうえ、とりわけ表現したい「庶民的(M項)」と「賑やかさ(E項)」、がゼロポイントになっていることです。
 その結果、壮大な都市空間はイメージできても、この語から人々の生活の息吹が聞こえてこないのです。
 音相分析を行うと、個人ではほとんど捉えられない感性部分を取り出すことができるのです。

●「ポルシェ」と「フェラーリ」・・・
イメージの微妙な違いを捉える音相分析

 「ポルシェ」(ドイツ)と「フェラーリ」(イタリー)。
 いずれも世界最高級といわれるスポーツカーですが、「ポルシェ」はゲルマン風の堅実さを、「フェラーリ」はラテン風の華やぎとスマート感を持つクルマといわれています。
 そのような個性(コンセプト)の違いを、ネーミングの音がどのように表現しているかを見てみようと、音相分析をしてみました。
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表情および情緒解析欄の上位の部分に次の表情語が並んでおり、内容に幾分違いはあっても「高級スポーツ車」を見事に捉えた語であることがわかります。
ポルシェ………「清らかさ、爽やかさ(N項)」、「動的、活性的(D項)」、「合理的、現実的(J項)」、 「都会的、現代的(H項)」、「暖かさ、安らぎ(P項)」、「静的、非活性的(T項)」
 情緒解析欄から・・・「流動感」「神秘的」「大らかさ」
フェラーリ……「派手さ、賑やかさ(E項)」、「シンプル感、明白さ(A項)」、「個性的、特殊的(K項)」、「都会的、現代的(H項)」「動的、活性的(D項)」、「静的、非活性的(T項)」、
 情緒欄から・・・「流動感」、「神秘的」、「大らかさ」、「弧高感」
またそれぞれの表情解析欄にあるメインの表情語を比べると、「ポルシェ」は「清らかさ、爽やかさ(N項)」、「合理的、現実的(J項)」とゲルマン的なムードを捉え、「フェラーリ」は「適応性、庶民性(M項)」、「派手さ、賑やかさ(E項)」とラテン・ムードを捉えているのがわかります。
 どちらも、高級スポーツ車のイメージを捉えながら、ゲルマンとラテンのアイデンティティーを謳い分けているところに深い興味を感じるのです。

●ネーミングの「分析と評価」を行います。

当研究所では、社名、商品名やネーミング案などをコンピューターで分析して、その語に対し一般大衆がどんなイメージを抱くかなどを解析したり、大量のネーミング候補作の中から商品コンセプトに適合する優良作を科学的根拠をつけてお勧めするなどの事業を行っています。 実際の分析表やそれを評価したコメント文の実例は、「分析表と評価の実例」欄(ここをクリック)にでていますのでご参照ください。
主な分析評価料 (消費税を除く)
(1) 個別評価の料金  (1語ごとに本分析、本評価するもの)
    ・本評価料      1語につき       30,000円
(2)総合評価の料金 (ラフ評価と本評価を組み合わせたもの)
    ・コンセプト調整費  1コンセプトにつき    70,000円
    ・ラフ分析料     1語につき         2,000円
    ・本評価料      1語につき         30,000円
(3)その他
     (実費)     
(参考)【総合評価(2)の場合の料金例】
(例1)コンセプト数1、ラフ評価数10語、本評価3語の場合
・・・・・180,000円
(:/例2)コンセプト数1、ラフ評価数20語、本評価3語の場合
・・・・・200,000円
(例3)コンセプト数1、ラフ評価数100語、本評価5語の場合
・・・・・420,000円
詳細は、当研究所へお問い合わせください。
Mail・kidoshi2002@ybb.ne.jp

● 日本語に明るさ、軽さを添える「無声化母音」

 母音はすべて有声音ですが、「iまたはu」が特殊な音素の間に入ると息は出るが声にはならない無声音になる場合がよくあります。音声学ではそのような母音を無声化母音と呼んでいます。
 無声化母音はことばに「明るさ、軽さ、現代的、西欧的、異国的」などのイメージを作るため、ことばのイメージ作りの上ではたいへん大きな働きをしているものなのです。
 日本語は拍(音節)の末尾に必ず母音をともなう開音節の言語のため、音の響きが単調化しやすく、また母音(有声音)の使用が多いため、ことば全体が暗い響きになりがちですが、そういうことばのところどころに無声化母音が入ることで、音の流れに明るさや軽さが生まれてくるのです。
 漢字でできた古い社名「三越(※「みつ」こし)、三井(「み」つい)、三菱(「み」つびし)、住友(「すみ」とも)、日立(「ひ」たち)」などのネーミングが、100年以上を経た今日でもほとんど古さを感じないのは、語中に無声化母音が入っているからです。※ 無声化母音のある拍を「 」で示しました。
無声化母音の音相的な効用などは、まだどこでも研究されていませんが、無声化母音は日本語の音韻に底流する清冽な地下水脈のようなものではないかと私は思っています。
無声化母音は、次の場合に生れます。
 (1)母音uまたはiが無声子音またはm.n(有声音)の間に入ったとき。
例えば下谷(∫itaja)のシの母音「i」は∫とt(ともに無声音)の間に挟まれるから無声化母音になりますが、渋谷 (∫ibuja)のシは後続する子音「b」が有声音のため「i」は無声化母音にはなりません。
 (例)・住まい(「す」まい)  ・機関車(「き」かんしゃ)  ・組合(「く」みあい)  ・式場(「し)きじょう)  ・気転(「き」てん)  ・住友(「すみ」とも)……
(2)語末の拍の子音が無声音またはm.n音で、母音がuで終わるとき。
 (例)・~で「す」  ・メン「ツ」  ・勤務(きん「む」)・シャ「ツ」  ・毛布(もう「ふ」)
 ただし無声化母音となるべき拍が、その語のアクセントやイントネーションと重なる時や、イ、ウ音の前後に長音が入ったときは無声化されません。  長音は前の母音(有声音)の連続ですから長音部分は有声音となるからです。

 ● 表情の捉えにくい7種のことば。

分析表をどのように読んでも、まとまった表情が捉えられないことばに出合うことがありますが、そのようなことばには、次の7つの種類があるようです。
 (1)「曖昧さ」や「弱さ」を意味に持つ語
 意味のうえで曖昧さや弱さをもっている語は、当然のことながら明白な表情を持たない語が多くなります。そのような語はコンセプトを正しく表現した語だから、音相的に優れた語といってよいものです。
次のような例が見られます。
(例)しとしと、あいまい、ほのぼの、まぼろし・・・
 (2)複雑な内容を持っている語
 複雑な内容を持っている語は、表情語の中に陽と陰、強と弱、静と動、活性と非活性など反対方向を向く要素が多く含まれるため、明白な表情が見えにくい語となるのです。
    (例)ギクシャク、そろそろ、おもろい、悪魔・・・
(3)意味や字形を中心に作られた語
 音に対する配慮をなしに意味や字形を中心に作られた語は、音相を分析しても表情が捉えられない語がほとんどです。
 法律用語や学術用語などに多いですが、次のような日常使うことばの中にも多く見られます。
(例)告別式、鎮魂歌、露骨、病気、激突、悪魔、激辛、爆発、海峡、躍動、デッドロック、ボキャ貧、ブルドッグ・・・
 (4)政策的な意図などで作られた語
 市町村合併による新地名や合併した会社名などに多くみられます。
 (例)大森区と蒲田区の合併でできた「大田区」、更級郡と埴科郡が合併してできた「更埴(こうしょく)市」、三井銀行と住友銀行の合併でできた「三井住友銀行」・・・
 (5)定められた命名法によって作られた語
 (例)学名、宗教上の法名など・・・
 (6)数字や記号を中心に作られた語
 (例)一番町、二番町…、一丁目、二丁目…、一号館、二号館…、A地区、B棟・・・
 (7)他援効果を意図して作られた語 
 他援効果とは、語の中の一部の音(拍)を強調するためその周辺に反対の音価を持った拍を置く手法のことをいいます。
 (強調する音の部分を「 」で示します)
 (例)どくだみ「茶」、  オロナミン「C」、  「ペプ」シコーラ、  午後の紅「茶」、  リポビタン「D」・・・

●おーいお茶」(伊藤園)の感性を見る

数多い缶茶の中で高い人気が続いている「おーいお茶」。
 お年寄りのいる家庭ならどこでも聞かれる日常語を、そのままネーミングに使って成功している理由はいったいどこにあるのだろうか。
 そこでまず、音相分析をしてみました。
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分析表をよく見ると、この語が日本家庭に多く見られる表情を幅広く捉えたことばであることがわかります。
 ① 表情解析欄の次の表情語から・・・健康的な庶民性が。
「庶民的」、「安定感」、「シンプル」、「非活性的」、「健康的」、「明るさ」、「優雅さ」
 ② 複雑度欄が捉えた「やや複雑」から・・・薄暗さや湿っぽさがどこか漂う空気感が。
 ③ 情緒解析欄の「クラシック」「大らかさ」「ひなびた感じ」から・・・やや古風な暖かさが。
 ④ 表情語全体のポイント数の低さから・・・奥行き感と温もり感が。
だがこのような「静」の環境を持ちながら、表情解析欄の濃青色の棒グラフ(活性的、派手さなど)が、軽やかに華やぐ「現代」を見事に捉えています。
 この語が人気を得ている秘密がそこにあったといえるのです。
 この語の中に「動」の要素が入ったのは、明るさや強さを作る無声破擦音「チャ」(+B2.2 H2.7)があることと、その明るさをさらに高めるため、暗い響きの有声音を4音(お、お、い、お)置いて「他援効果」を利かせたところにあったのです。
 面白さも味もないこの語がネーミングとして成功したのは、多くの人がこの時代がかった退屈なことばの中に輝くような1点を感覚的に捉えているからだといえるのです。
 「お茶」の代わりに、「おーいメシ」「おーいサケ」では、現代人はネーミングとしては認めてくれないのです。

●行動科学に応用できた音相理論
・・・ある生保会社の実験より・・・

電話によるセールス「テレマーケティング」を行っているある大手生命保険会社がかかえている課題は、取扱者に十分な訓練を行っていても勧誘成果の上がる人と上がらない人が明白に分かれることと、その原因がまったく不明なことでした。
 あるいはそれが、ことばの音の使い方に関係があるのではと考えられた幹部の方が、当所を訪ねてこられました。
 成績の良い人と、良くない人の実録テープを聴きしましたが、ほとんど区別はできませんでした。
 そこで、取扱者の仕事に対する取り組み方に違いがるのではと考えた当所では、心理面や感性面を捉えるうえで有効な、「音相基」(注)の使い方の傾向を個人別に調べることとなりました。
    注)音相基とは破裂音、摩擦音、有声音、多拍、少拍、濁音など、ことばに表情を作る音の単位をいいます。
保険の電話セールスをする取扱者には、次の2つのタイプがあるようです。
 ① 商品の品質や会社の社会的貢献度などを意識して話すタイプ。
   ② そのような意識をソフトなことばに包んで話そうとするタイプ。
そして①に属する人たちは、無意識的に硬い響きを作る破裂音系(パ行、タ行、カ行)の音が入ったことばを多く使い、②のタイプの人は破裂音系の音の使用は少なく、それに代わって摩擦音、流音、鼻音、有声音などの使用が自然に多くなるはずです。
    そこでこれらの音の使用状況を統計調査することで、販売成果との関係性が得られるものと考えました。
 作業者60人の実録テープをもとにして、音の内容を調べた結果、成績優良者は不良者に比べて破裂音系の音の使用が15%も多く、摩擦音その他の使用がたいへん少ないことがわかりました。

 この調査を行ったことで、ことばの音にとりわけ関心のないお客様でも、取扱者が使う微妙な音の違いを聞き分けながら、会社や商品への信頼度を判断したり、「保険の加入」という重大な決定を行っていること、デパートや喫茶店のような一般的なサービス業とは反対の音(音相基)の使用が必要なことがわかったのです。
 その保険会社では、この調査結果をその後の人事採用や訓練などに利用しておられるそうです。
音相理論は、このような企業内で日常多発している行動科学の分野についても種々応用ができるのです。

方丈(ほうじょう)の
大庇(おおひさし)より
春の蝶              (高野素十)

お寺の方丈の大庇の暗がりから、春の蝶が艶(あで)やかに舞い降りてきた一瞬の景を詠んだ秀句ですが、この句について俳人小林恭二氏は産経新聞の俳句欄で次のように解説しておられます。
 「なんと美しい言葉の流れだろう。ことに句の要所をしめる四つのハ行の音(は・ひ・は・ふ)には美と呼ぶべき何かが宿っている。
 それは詩というよりは音楽に近い。しかも、そうしたたおやかなことばの流れが堅い漢字の殻にとりこまれているのが泣かせる。」(原文)

 さすがに優れた観察ですが、私は「(この句には)美と呼ぶべき何かが宿る。それは詩というよりは音楽に近い」といわれたことばに深く共感しました。
 音相論を頭においてこの句を読むと、2つの音楽的な感動を覚えるのです。
 1つは、「チョ」という音を中心にしてすぐれた他援効果が作られていることです。
 他援効果とは、ある音を誇張するためその音の前後に反対方向を向く音を集める手法をいいます。

 この句でいうと、日本語の拍の中で最も明るく軽い響きを作る無声破擦音「チョ」の音相を引き立たせるため、その前にまったく反対の暗く重たい「お、う」列音を11音も置いてたことで、蝶の艶やかさがさらに印象深く伝わってくるのを感じます。

 今1つの感動は、長音の多用効果があげられます。長音はことばに動感(動く感じ)や弾みを作る音相をもっていますが、それを4音(ほー、じょー、おー、ちょー)も並べたことで蝶の動きが聴覚的および視覚的に見事に表現されていることです。
 このような隠し味の内容は、音相理論を用いることではじめて具体的に説明できるのではないかと思います。

 なお文中にでてくる「ハ行音の多用」は、「摩擦音の多用」とされたほうがよりよいように思います。
 摩擦音とは息を口内の一部に摩擦させて出す音で、ハ行音のほか「サ、ヤ、ワ、ザ行音」とそれらの拗音がありますが、どれもハ行音と同じように爽やかさや清らかさなどの音相をもっているからです

●優雅な有声音・明るい無声音 

ことばの音を大きく分けると、無声音と有声音に分かれます。
 無声音とは声帯を振動させずにだす「タ・カ・サ・ハ・パ」の各行音とその拗音をいいます。
 これらの音は「現代的、健康的、軽快感、明るさ、スピード感、爽やかさ」などプラス(陽)のイメージを作るため「ペプシコーラ、カルピス、コカコーラ、カプセルホテル、ポルシェ、ポカリスウエット」など、軽やかで明るいことばの中で多く使われます。

 また、有声音は声帯を振動させて出す音で無声音以外のすべての音をいいますが、無声音は反対に「優雅、落ち着き、穏やか、豪華、奥行き感、暖かさ」など静的なイメージを作る音相を持っているため、「ダイヤモンド、エレガント、ジョニーウオーカー、メロン、サントリー・オールド、ロマン」などのことばに多く使われています。

    日本語はアイウエオ、カキクケコなど138個の音節(拍)でできていますが、日常つかわれている現代語の場合、その40数%は無声音で残りの50数%が有声音となっています。
 日本語が外国語に比べると穏やかで地味なことばと言われているのは、有声音の子音が多く使われることと、1つ1つの音節(拍)に必ず母音(有声音)がつくため有声音がとりわけ目立つ言語だからです。

 ●「日本語の音相」をお頒(わ)けします。

「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊)はすでに絶版になっていますが、研究所に多少予部がありますので、ご希望の方にお頒わけします。
(価額1部3800円、送料、代金引換え料、送金為替料は当方で負担します)
 音相システム研究所のこちらのお問い合わせフォームより、郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、配達希望時間などをご連絡ください。

図書内容は→こちらへ
【読者評】
●日本語美の真髄をとらえた貴重な研究
 「音相」を知らずに「日本語の美」を考えてきた己の不覚を恥じ入りました。
 音相は、これまで誰も気づかなかった日本語美の真髄に迫る貴重な研究といえましょう。
 そして木通先生の業績は、それを文芸作品ばかりでなく商品名や流行語にまで広げて実証しておられることです。(京都大学・一文芸学徒)

●さらに深まった音相の奥義
 音相理論は、前著「音相」(プレジデント社刊)を読んで以後、深い関心を持っていましたが、今回発行された「日本語の音相」は、さらに体系的で奥が深いのに感動しました。
 これからは音相を知らずに日本語を語れないことをつくづく実感しております。(H/M) 

●素晴らしい世界を知りました
 久々に目の覚めるような感動でした。長年のご労作に深く敬意を表します。(富山、日本語研究グループ hirai)
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