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音相のあらまし

音相とは何か

ことばは意味を伝えるだけでなく、意味の周りをオーラのように包んでいる「雰囲気やイメージ」なども伝えます。

「桜」という語は、辞書にあるような意味を伝えるだけでなく、艶(あで)やかさ、豪華さ、爽やかさ、大らかさなど、桜のまわりにある雰囲気や感情や思いを伝える働きもしているのです。ことばが意味以外に伝えるこのようなイメージ(表情)のことを「音相」と呼んでいます。

表情は主にことばの音(語音)から生まれますが、われわれはほとんど無意識に表情をうまく使い分けながら言語生活を行っています。 「桃色」と「ピンク」とは意味は同じですが、桃色(ももいろ)には落ち着いた穏やかな音があり、「ピンク」には明るさや可愛らしさを感じる音があります。そのため赤ちゃんの頬は「ピンクの頬」、老人の頬は「桃色の頬」と言う方が実感がより正しく伝わることばといえるるのです。

また、「感覚」という音には「格調の高さや信頼感」のようなものを感じますが、意味が同じ「センス」からは「深い考えのない軽い思いつき」のようなものを感じます。そのため「センスが良い」ということばは、その場の状況などによってはほめことばにならないことがあるのです。音がつくるこのような表情は、意味に劣らぬ働きをしますが、それらを明らかにした学問はどこにもありません。 心理学や言語学に「象徴」という理論がありますし、わが国にも古くから「音義説」などの学問がありましたが、これらはどれもことばにはイメージ(心的映像)を伝える働きがあることを解いただけで、1つ1つのことばがもつイメージを解き明かことなどはできませんでした。このように、音の表情には理論がないため、専門家の間でも「語感が良い」とか「語呂が良くない」などということばでしか語られていないのが現状です。

音相理論は、木通隆行が日本電信電話公社(現NTT)の宣伝課でPR用のラジオ台本を執筆していたとき、大衆にことばを印象深く伝えるには、音が伝えるイメージの働きの大きさに気づいて研究したのが始まりでした。この理論は、以後40年の歳月を経て完成させたものです。

ことばは意味とともにイメージを伝える働きをします。 イメージは主に音によって作られますが、意味に劣らぬ働きをするイメージについての仕組みや働きを明らかにした学問はどこにもありません。 心理学や言語学に「象徴」という理論があり、わが国にも古くから「音義説」などがありましたが、これらはみな「ことばにはイメージ(心的映像)を伝える働きがあることを説いただけで、1つひとつのことばがどんなイメージ(表情)を伝えているか、などを捉えることはできませんでした。音が作る表情を取り出す方法がなかったため、専門家の間でも「語感が良い」、「語呂が良くない」などどうにでもとれる曖昧なことばでしか論じられていないのが現状です。 音相理論は、木通隆行が日本電信電話公社(現NTT)の宣伝課で放送用のラジオ台本を長年執筆していたとき、ある文章を大衆に印象深く伝えるには、音が伝えるイメージの働きの大きさに気づいたのが始まりでした。以後40年をかけて表情や情緒を捉える手法を組み立て、完成させたのが音相理論です。

ことばのイメージ研究の歴史

紀元前4世紀、ギリシャの哲学者へラクレートスが、語音が伝えるイメージについて述べた記録があるようですが、近代言語学の発達とともにこの研究は意味論の中の[象徴論]で扱われるようになり、イメージや表情は「心的映像」という名で研究されるようになりました。しかしながらこれらは、誰にもが気づく明白な特徴を持った僅かな音節だけが対象で、これを使ってあらゆることば(単語)のイメージを取り出すことはできません。わが国にもこれに類した研究がありました。鎌倉時代に僧仙覚が提唱し、江戸期になって鴨真淵、本居宣長、橘守部などの国学者が引き継いだ「音義説」です。これは、[アは顕わるるさま][サは清らかなるさま]など、五十音のイメージを捉えたものですが、「ア」という音のイメージを[顕わるるさま]と定義ずけると[穴]の「ア」の証明はできないし、「サ」の音を「清らかなるさま」と定めると、[臭(くさ)い]の「サ」の説明ができないなど、矛盾に満ちたものでした。洋の東西で行われたこれらの説の欠陥は、どちらもことばの表情を「音素」や「音節(拍)」という表面的な音の単位でしか捉えていないところにあったのです。ことばの表情を捉えるには、「音節」や「音素」をその奥で成り立たせている音の単位、「調音種」や「音相基」で捉えなければならなかったのです。

音相という語の語源

遣唐使として唐に渡り帰国した空海は、平安時代のはじめ(大同元年…806年)真言宗(真言陀羅尼宗)を開きました。真言宗は、文字で表現できない深層の世界、実相の世界を究めようとする教えですが、その中に「声字実相義」(しょうじじっそうぎ、819年)というのがあります。

「声発して虚(むな)しからず、必らず物の名を表するを号して字という。名は必らず体を招く。これを実相と名づく…」

などなど、ことばと事物の実体は合一のものという「言事融即」(げんじゆうそく)の教えを説いたものです。声字とは、記号的言語ではなく、異次元の宇宙的存在エネルギーとしてのことばを指すもので、事物がもつ本当の相(すがた…実相)は、音声言語(話しことば)で代表される声字によって開示されると説いています。

「音相」は、これらを背景に生まれたものです。また色彩学に、色を成り立たせている3要素として「明度」(明るさ)、「彩度」(鮮やかさ)、「色相」(色のすがた、いろあい)の分類法があることも参考にしました。

音相は大衆の感性から生まれる

音の良いことば、良くないことばを評価するのは、高い感性をもつ専門家でも、マスコミ関係者などでもありません。それは、目に見えない「大衆」という大きな視点と公平な意志によって行われているのです。そこで、音相をとらえるには、大衆の感性とはどのようなものかを明らかにしておくことが必要です。人々はことばについて、その人限りの独自の感じ方をする部分と、多くの人と同じように感じる部分があります。固有の感じ方をする部分は、その人の個性ともなっても現れますが、人の感性からそういう異常な部分をすべて取り去った、誰にも共通する部分の感性のことを私は「大衆の平均的感性」と呼んでいます。音相はこの「大衆の平均的感性」によってことばの良否を決める技術だといってもよいでしょう。日本人は誰もが同じように感じる感性を持っているからこそ、初対面の人と機微にわたった話ができたり、流行語があっという間に全国の人に広がったりもするのです。音相論を考える上で、この大衆の平均的感性の存在は片時も忘れてならないものですが、「大衆」という語は社会学や心理学などの辞典にもまったく記載がないように、学問の対象にはなっていない概念です。

そこで私は、音相論を進めるための必要から「大衆」という語を次のように定義づけました。「大衆とは、平常時には人と人とのかかわりのない関係だが、ある事態に処したとき、共通的な価値観のもとに思考し判断のできる人々のことをいう」と。このような共通的な感性は日本人が先祖伝来持ち続けている、遺伝子の一種と言ってよいでしょう。

現代人のことば感覚

最近の若者たちには、漢字の読めない人が増えています。しかし彼らは、字が読めず意味がわからなくても、日常の会話であまり不便は感じていないようです。それは、ことばの音でイメージ(表情)を捉える感覚が発達しているからです。「厳格」(げんかく)ということばの意味や文字がわからなくても、音が伝えるイメージだけで「厳しさや威圧感」のようなものを感じたり、「アネモネ」という音を聞くだけで花の姿は知らなくても、やさしく暖かいイメージのものが思い描ける感性をもっているのです。

昭和の初め、「ランデブ−」、「銀ブラ」、「モボ」、「モガ」などということばが流行りました。これらの語は、当時の若者たちがこの語に込めた思いなどとは裏腹な、暗く沈んだ音ばかりでできたことばですが、そんなチグハグなことばが10数年間も流行しました。このことは、当時の人がことばの音にいかに無関心だったかを示すものといってよいでしょう。それに比べて現代人はどうでしょうか。

「チャパる」「超」「デパチカ」「チクる」など、明るく強い響きのことばが多く使われていますが、これまでにない概念(意味)を、現代人にふさわしい音を使って表現した語であることがわかります。また音の響きの悪い「ビッグ・エッグ」、「E電」、「DIY(ディ−アイワイ)」、「WOWOW(ワウワウ)」のような語は発表になったその日から、よほどの場合でない限り口に出す人がいないのです。

そうした感性があるからこそ、「ルイビトン」、「ディオール」、「アルマーニ」、「ティファイー」・・・など意味のわからないブランド名にも、現代人は魅力や親しみを感じることができるのです。現代人は、ことばのイメージが意味に劣らぬ働きをしていることを、暮らしの中で肌で感じて知っているのです。

音の良いネーミングとは

音響感覚が発達した現代人に好まれる音とは、具体的にはどんな音をいうのでしょうか。それは音の流れが美しく耳ざわりが良いだけでなく、その語の意味や雰囲気にふさわしいイメージを作る音が入ったことばでなければならないのです。すなわち、爽やかな意味を持つことばには爽やかさを感じる音を、暖かな意味を持った語には暖かさを感じる音を多く使っていなければならないのです。このように、意味と音の作るイメージが一つの像に重なると、イメ−ジの輪郭が明白になるため、印象深く記憶に残ることばになるのです。「厳格」ということばには硬さや厳しさを感じる音を持っているし、「曖昧」は、つかみどころのない音でできているため、どちらも優れたことばといえるのです。

「音相」はどんな方法で捉えたか

「音相」はどんな方法で捉えたかについて、簡単に触れておきましょう。「ことばが持つ表情」をどこまでも分解してゆくと、陽と陰(明るさと暗さ)の軸と、強さと弱さの2つの軸で捉えることができます。これらの2軸を組み合わせると、ことばの表情は次の6つに大別できます。

  1. 明るく強い表情(+BとH)
  2. 明るいが強くない表情(+Bと非H)
  3. 暗く強い表情(−BとH)
  4. 暗いが強くない表情(−Bと非H)
  5. 明暗いずれでもないが強い表情(±B0とH)
  6. 明暗いずれでもないし強くもない表情(±B0と非H)

次に、表情とそれを作る音素の関係を捉えるため、辞書の中から感情を含んだすべての語を取り出して(約1300語)、1つ1つの表情を内容別に上にあげた6種類に分け、それぞれの中で多く使われている音素を取り出し、それと意味の関係を結びつけたのが次の「音素と音価表」です。

この表から次の式が生まれます。

音素音素(子音)の構造音節の表情
t(タ行の子音)前舌音×破裂音×無声音+B1.4 H1.5
g(ガ行の子音)喉頭音×破裂音×有声音−B2.0 H1.0
o(母音「オ」)有声音−B0.7 H0,0

この方法を用いると、「ト」や「ゴ 」という音節(拍)は

  • ト=t+o=t(+B1,4 H1.5)+o(-B0.7 H0.0)=(+B0.7 H1.5)
  • ゴ=g+o=g(-B2.0 H1.0)+o(-B0.7 H0.0)=-B2.7 H1.0)

の表記が可能となり、これを元に表情をつくる単位となる音相基 (甲類表情)の表情を捉え、さらに音相基相互の響きあいが作る乙類表情を捉えたうえ、数種類の表情語の響き合いから生まれる「情緒」(24種)を捉え、それらのすべてを総合して初めて「ことば」(単語)の表情が捉えられるのです。

音相はどんなことに役立つか

音相論は、ことばの「意味」では伝えられない「表情」や「情緒」の部分を数量的に捉えた理論です。

ことばの音が伝えるこのようなイメージには感覚的なものが多く含まれるため、学問的には抽象的にしか表現できないものですが、音相理論が出現したことで、科学的な根拠をもとにそのほとんどが取り出せるようになりました。

音相分析を行うと、あることばがどんなイメージを伝えるかがわかりますから、文芸分野などでこれまで考えられなかった発見や、新解釈などができるようになるのです。

当研究所ではイメージ解析ソフトOnsonic V1.0を開発し、それを元に、すでに、多くの事業活動をおこなってきましたが、この6月に開発したソフト(OnsnicU)により、さらに今後の活動幅は広まることと想います。すでに実施中のもののうち、主なものを拾ってみました。

  1. 日常語や外国語や商品ネーミングなどすべてのことばが、どんなイメージを伝えているかを客観的な根拠によって取り出せるようになったこと。
  2. 詩、俳句、小説など文芸作品で使われている語彙やキーワードを分析して、作品の奥に広がる世界や、作家の内面にあるものなどが取り出せるようになったこと。
  3. 文章を作る際、文脈にふさわしい語を選び出せるようになったこと。
  4. ネーミング制作の際、多くの候補作から商品コンセプトに最も適した音を持つ語が瞬時に選びだせるようになったこと。
  5. 企業等が多額の費用をかけて保持している未使用中の商標を分析して、商品コンセプトに適する名称か否かを評価し不適切なものはコンセプトの異なる他部門へ転用などしてのリストラ施策の手助けができるようになったこと。
  6. 電話販売(テレマーケティング)や対面応対時における語彙選択等について理論的なの指導がおこなえるようになったこと。
  7. 姓名の音相からその人の性格が判断できるほか、新生児に期待したい性格をコンセプトとして入力し、それに適する名前案を提示できるようになったこと。
  8. 対話ロボットに必要な情緒表現の入力法についての提言ができるようになったこと。