音相マガジン

5月の記事

2007年4月16日(月)
●高尚・優美 だがメカ表現が弱い
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(注) 青い棒グラフの読み方
 濃い青・・・「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
 淡い青・・・「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。
 中間の青・・・プラス、マイナスどちらにも機能する表情語。

 いま売れ筋の液晶テレビ「アクオス」(シャープ製)。
 分析表をみると、「清らか、爽やか(N)」をトップに、高尚さや優美な雰囲気を作る薄青色の表情語、「高級感、充実感」(R項)」、「安定感、信頼感(Q項)」、「静的、非活性的(T項)」、「高尚さ、優雅さ(S項)」、「清潔感、健康的(O項)」、「暖かさ、安らぎ(P項)」が上位に並ぶため、居間を飾るにふさわしい豪華さを感じる名前であることがわかります。
 そういうムードが生まれたのは、全体のポイント数を低めに抑えたため全体の表情語が圧縮されて奥行き感が作られたことと、複雑さを作る逆接拍が2音(拍…ク、ス)も入ったことが原因です。(逆接伯とは子音と母音のB(明るさ)の値がプラスとマイナスを向く拍をいいます。)
 だがこの分析表で気になるのは、優美さに捉われすぎて、大事なコンセプトである「メカの優位性」がほとんど表現されてないことです。
 メカのイメージを作るには、濃い青色グラフの「軽快感」、「進歩的」、「新奇さ」や、ゼロポイントの「活性的」、「賑やかさ」、「個性的」に点が必要で、それにはイ音の母音をもつ無声音(キ、シ、チ、ヒ音とその拗音)や促音(「ッ」の音)がほしいのです。
 制作時のコンセプトを知らない私ですが、平均的な日本人のことば感覚で捉える限り、これらの音がもし1音入っていたら、さらに印象深いことばになっていたと思うのです。

2007年5月16日(水)
●「レクサス」・・・コンセプト表現にややズレが

 「レクサス」は、トヨタがアメリカ向け高級車として製造し、アメリカで高い評価を得たあと日本に逆上陸させた話題のクルマです。
 トヨタの戦略は「クルマを売るのでなく、理想のライフ・スタイルを売る」にあるようなので、この語のコンセプトの中心は「高機能、高級感、優雅感、居住性」あたりにあると考えてよいでしょう。
 展示場でも大理石や天然黒御影石を使い、特別訓練された高級服のセールスマンがお客応対に当たるといった配慮までされているようです。
そのようなコンセプトを、「レクサス」という名がイメージとしてどこまで捉えているか見てみようと、音相分析を行いました。

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 表情解析欄の上位を見ると、「爽やか(N項)」を筆頭に、機能性や居住性を表現する表情語「都会的、現代的(H項)」、「進歩的、躍動感(B項)」、「動的、活性的(D項)」、「安らぎ感、暖かさ(P項)」、「新鮮さ、新奇さ(C項)」などが並び、コンセプト・バリュー欄でも、「スポーティー」で「男女とも若者に人気」の語と出ています。
 しかしながら、販売戦略で格段配慮をしている高級感や高尚さを表す表情語「優雅さ、高尚さ」「高級感」のポイントが非常に低いため、そこに何かちぐはぐなものを感じてしまうのです。
 そのちぐはぐさを作った原因として、有効音相基欄では「無声音の多用、高調音種比、プラス高輝性、無声化母音の多用」を取り上げています。
 この語の次の問題点は、20種ある表情語をあまりに多く使いすぎていることです。
 意欲的な商品の場合は表情語の数も増えがちですが、多くのことを表現すると、中心となるべきイメージがぼやけてしまうのです。
 このネーミングはアメリカでは好評のようですが、ことば感覚や生活観が違う日本人がこの語に抱くイメージは、以上のようなものになるのです。
 このことは、日本語のネーミングを外国で使うときや、外国のブランド名を片仮名書きして国内で使うときにも、とくに配慮しなければならないことのように思います。

2007年5月16日(水)
●ことばの「イメージ研究」の歴史

 紀元前4世紀、ギリシャの哲学者へラクレートスが、一部の語音が伝えイメージについて述べた記録があるようですが、ことばの音とイメージの関係を説いたものはフィジズ説と呼ばれていました。
 フィジス説は近代言語学の発達にともなって、言語学の意味論の中の[象徴論]というところで扱われ、イメージは「心的映像」ということばが使われています。
 だが言語学が対象としているものは、一部の特徴的なイメージをもつ音に限られている視、中小敵名ことばで終わっているため、現実にあることばのイメージを取り出すことはできません。
 わが国でも鎌倉時代、僧仙覚によって提唱され、江戸期において鴨真淵、本居宣長、橘守部などの国学者に引き継がれた「音義説」というのがありました。この説は、「アは顕わるるさま」、「サは清らかなるさま」など、五十音のすべての音を捉えていますが、「ア」を[顕わるるさま]と限定して定義ずけると[穴]の「ア」は説明できないし、「サ」を「清らかなるさま」と定めてしまうと、[ドサクサ]の「サ」の説明ができないなど多くの矛盾がありました。
 これら諸説の欠陥は、どれもがことばの表情を「音素」や「音節(拍)」という表面的な音の単位で捉えたところにあったのです。
 ことばの表情を捉えるには、「音素」や「拍」を構成している今一段下の単位(音相基)で捉えなければならなかったのです。
 1つ1つの音相基は多くの表情を持っていますし、音相基同士が響きあって生まれる表情もあります。また表情語同士の響きあいから生まれる「情緒]もあり、「ことば」の表情はこれらのすべてを総合することで、初めて捉えることができるのです。
 音相論は、そのような方法でことばの音がもつ表情を捉えた理論です。

2007年5月16日(水)
●リズムの日本語、メロディーの西欧語

 西欧語と日本語の音韻には、美の追い方にメロディ−とリズムという傾向的なの違いがあるようです。
 辞書を引くと、メロディーは「音の流れが作る美しさ」、リズムは「規則正しい音の繰り返しが作る美のかたち」とありますが、西欧語ではそれが「韻をふむ(押韻)」習慣となり、日本語では七、五調など音数律の発達につながったといってよいでしょう。
 西欧語の押韻には文頭で作る頭韻と文末で作る脚韻がありますが、それらがある時間間隔で繰り返されることで心地よい音の流れ(メロディー)が生まれます。
 それに対し、子音の後に母音がくる開音節語の日本語では、拍の存在が顕著なうえ、音を強めるためのアクセント(強調アクセント)をもたないことが重なって、「音数律」を追う習慣が生まれたと考えてよいようです。
 日本語の詩や文章にも、西欧風の韻を踏んだことばが時々見られます。
    春が来た 春が来た どこに来た
   山に来た 里に来た 野にも来た  〈小学唱歌〉 

 この詩では、各句の終わりで「来た」という明白な韻を踏んでいますが、日本人はこの詩の良さを押韻に見るよりも、〈3音+2音〉で進行する音数律のリズムの方に感じているのです。
 そのような感性の違いから、ネーミングの場合でもメロディ−を尊ぶ西欧語では「ジョンソン・アンド・ジョンソン」(11拍)や「ストラディバリウス」(8拍)のような長い語が何の抵抗もなく使われていますが、音の区切りが明白な日本語では8拍以上のことばに長拍感を感じるのです。
 ネーミング作りの場合、日本人にそんな好みがあることを心に留めておく必要があるようです。

2007年5月16日(水)
●ネーミングの「分析と評価」を行います。

 当研究所では、社名や商品名やネーミング案をコンピューターで分析してその評価を行ったり、多数のネーミング候補の中から優良作を取り出すなどの仕事を行っています。
 分析の内容や評価文の実例などは、「分析表と評価の実例」(ここをクリック)に多数でていますのでご参照ください。
主な分析評価料 (消費税を除く)

(1) 個別評価の料金  (1語ごとに本分析、本評価するもの)
      ・本評価料       1語につき       30,000円
(2)総合評価の料金 (ラフ評価と本評価を組み合わせたもの)
      ・コンセプト調整費   1コンセプトにつき  70,000円
      ・ラフ分析料       1語につき         2,000円
      ・本評価料       1語につき       30,000円
(3)その他

(参考)【総合評価(2)の場合の料金例】
(例1)コンセプト数1、ラフ評価数10語、本評価3語の場合・・・・180,000円
(例2)コンセプト数1、ラフ評価数20語、本評価3語の場合・・・・200,000円
(例3)コンセプト数1、ラフ評価数100語、本評価5語の場合・・・420,000円

詳細は、当研究所へお問い合わせください。(電話・046-848-1276)

2007年5月2日(水)
●「スーパー・ゴールド」 vs 「ザ・ゴールド」・・・
どうなるか、今年のビール戦争

 最近のビール市場は「第三のビール」や「発泡酒」で賑わってきたが、新聞報道によれば今年は「本格派ビール」が主導権争いをする年になるという。
 そして、売20年を迎えたアサヒの「スーパーゴールド」と、キリンが新たに売り出した「ザ・ゴールド」の競争が過熱しそうだとも報じている。
 そうなると、どちらのネーミングが「本格派ビール」にふさわしいイメージを伝えているかがその行方を占う鍵になるはずだ。
 そこで「本格派ビール」というイメージの表現度を比べるため、両語の音相分析を行ってみた。
 「ザ・ゴールド」からみてみよう。

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 表情解析欄を見ると、「本格派」のイメージを作る次の表情語(薄紺色の棒グラフ)
「暖かさ、安らぎ(P項)」 「安定感、信頼感(Q項)」 「高級感、充実感」(R項)」 「高尚さ、優雅さ(S項)」 「静的、非活性的(T項)」
をトップに置きながら、「ビール」をイメージさせる濃紺の棒グラフ
「シンプル感、明白さ(A項)」 「躍動感、進歩的(B項)」 「新鮮さ、新奇さ(C項)」 「若さ、溌剌さ(G項)」 「派手さ、賑やかさ(E項)」
を僅かに加えたものになっている。
次に「スーパーゴールド」はどうだろうか。

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 この語は、本格派ビールを表わす表情語(薄色グラフ)だけを立て、ビールを表す表情語は全くない。
 すなわち、どちらも「本格派」のイメージを明白に打ち出しながら、「ザ・ゴールド」はビールの実体感を僅かに捉え、「スーパーゴールド」は本格派がもつ格調や存在感だけを純粋に追う語となっている。
 この微妙な違いを、両語のコンセプトバリュー欄が、好感をいだく人の性別と年齢層で捉えている。
 前者ではそれらに大きな偏りがなク、大衆一般を捉えているのに対し、後者では本格的ビールの味にこだわる年配者ターゲットをおいているのがわかる。
 以上の分析からわかるのは、ともに高度な音相感覚を計算に入れた、いずれ劣らぬ優秀作ということだ。
 これらのビールの売れゆきは、今後の販売戦略にかかっているといってよいようだ。

2007年5月2日(水)
●音相論はどんな世界を捉えたものか

 ことばには、意味のほかイメージを伝える働きがあり、意味と音の伝えるイメージが同じ方向を向いたとき、そのイメージさらに明白となり、印象深いことばとなって伝わってゆく。
 ことばの音はそれほど大きな働きをしているのだが、感覚的なものが多く含まれるいめ、学問的には常に抽象論で終わっていて、現実のことばが持つイメージの解明などは到底不可能である。
 だが、大衆の音響感覚が高度に発達した現代では、現用していることばが伝えるイメージを具体的な尺度で捉える必要が痛感されるようになってきた。
 音相論はそういう必要から生まれたものである。
 この理論は意味とイメージの関係を数量的なもので解明し、それを元に実在することば(語)の良否を評価する技術だが、この理論が生まれたことで明らかになった新しい分野に次のようなものがある。

1.意味とイメージの関係を数量的に捉える手法を開発したこと。
2.イメージの客観価値を測る尺度として大衆の中に存在している「平均的感性」を用いたこと。
3.日本語のイメージを捉えるには、まず語彙の調査から始めなければならないが、その調査対象語に「現用されている和語」を用いる手法をとったこと。(これについては後述する)
4.語音が作るイメージを、+輝性(+B)、−輝性(−B)、および勁性(H)のコア(核・・・音価)で捉える手法を開発したこと。
5.ことばに含まれる「イメージ」のすべてを40shu の表情語に整理したこと。
6.表情を作る音の単位として、音素(26種)のほか順接拍、逆接拍、無声化母音、調音種比など、合計40の音相基(甲類表情)を捉えたこと。
7.音相基相互の照応から38種の乙類表情を捉えたこと。
8.複数の表情語の照応が作る「情緒」の体系を捉えたこと。
9. 表情把握の基本となる「特性検出項」を設定したこと。
10. 音価(BH値)計算の尺度となる標準値を定めたこと。

2007年5月2日(水)
●音相論が生まれるまで

 私は若いころ、長い間NTTの前身、日本電信電話公社の総裁室広報課でPR用ラジオ放送の台本を書く仕事をしていたことがある。 多くの台本を手がけてゆくうち、聴取者へのメッセージを印象深く伝えるには、意味だけでなく音が伝えるイメージでことば選びをしなければならないことに気がついた。
 しかしながら、それを知るには意味と音との構造的な関係を明らかにしなければならない。
 そこで、「人々が好んで使っていることば」の音を見てゆくと、それらは耳障りの良さだけでなく、意味や雰囲気(コンセプト)にふさわしい音を持った語であることを発見した。これが音相論との取り組む始まりだった。

 ことばの科学には意味や文法や音声のほか言語の形態や統辞構造など極めて広い分野があるが、人々が日常の言語生活で求めているのは、「この語はどんなイメージを伝えるか」、「あるイメージを伝えるにはどんな音を使えばよいか」など次元の異がるものであり、それは同時にことばの「美」への追求と深く関わるもののように思われる。
 すなわち、現実的なことばのイメージを捉えるには、言語関係の諸学のほか、美的なものへの取り組みが必のものとであることがわかる。そこで私は非才に鞭打ちながら、文芸や演劇、美術、音楽など種々の実作面にも手を染めることとなる。
 このような遍歴が理論を組み立てるうえで大きく役立った。
 例えば、色彩学の補色の理論からことばに隠れている逆接、順接の存在見つけたり、油彩画の実技の中から音相基の響き合いが作る情緒や他援効果などを実感的に理解できたりした。

 ことばの音相を思い始めたのは昭和26年(1951年)のころだったが、先人が残した資料は全くといってよいほどなく、教えを乞う人もいなかったから、一応の体系化が終わったのは40年近くを経過した平成2年(1990年)のことだった。

2007年5月2日(水)
●音相を現用の「やまとことば」(和語)で捉えた理由

 日本語の音相を捉えるには、具体的なことばを対象にした大掛かりな調査が必要だが、その調査にどういう単語を用いるかで、得られる結果は大きく変わるはずである。
 現代語の音相を捉えるのだから、いま使われている語を調査すれ場よいという見方があるが、ことばは長い歴史の中で作られたものだから、現代語だけを輪切りにして眺めてみても、その本質を取り出すことは不可能だろう。
 そんな考えに基いて、私は現在でも使われている「やまとことば」(和語)を調査対象語に選ぶこととした。
 和語は日本語の祖語として有史以前からこの地に住んだ数十億、いやそれ以上の人の感性から生まれ、長年にわたる陶汰(とうだ)を受けながら生き続けてきたことばであり、しかも現在使われている単語の75〜85%程度を占めていることばだから、音相を捉える上でこの上なくふさわしい語と考えたからである。
 そこで、「国語辞典」に掲載されている和語から「感情」を持つ語を取り出して、感情の傾向と使われている音相基との関係を調査することとした。
 しかしながら、その語に感情が含まれているかどうかは、視点を変えれば別の判断が生まれるものも少なくない。
 そのため、「感情」の定義の幅を種々変えて調査のしなおしを繰り返した結果、1289語の「感情語」が確定できたものである。

2007年4月2日(木)
●Q&A  ネーミングにおける意味の役割

 Q ことばは音が先導する時代になりましたが、これからのネーミングにおいて「意味」の役割をどう考えたらよいでしょうか。 (skc.m)

A 商標登録を申請しても、意味的なものが含まれる語はすでにほとんど登録されていて受理されないし、意味不明の西欧語が「音」が良いというだけでヒットしているものが多いなど、ネーミングは音への取り組みがは欠かせられない時代になっています。
 だが、ネーミングにとって意味の果たす役割の大きさは、これまでとまったく変わるところがなく、音の良さに意味の良さが加われば、その語はさらに輝きを増すのです。
 だがこれからは、「意味」の概念の幅を拡げる工夫が必要となるはずです。

 「セ・リーグ」、「パ・リーグ」の「セ」「パ」には「セントラル」「パシフィック」という意味との結びつきがあるから「Aリーグ」、「Bリーグ」と記号で言うよりも温かみや親しみ感がありますし、それだけに憶えやすくもなるのです。
 これからは、ラ行音や長音(ー)は「動くイメージを作る」という音相論の常識を頭に置きながらクルマの名に「R」や「ー」を使う工夫をしたり、沖縄地方にあるニノという果物で作った薬用酒の名に果実の「カ」を付け「ニノカ」という名を考えるなど、意味的な表現法の研究はこれからのネーミングの新らしい課題になることでしょう。