音相マガジン

4月の記事

2007年4月16日(月)
●「スーパー・ゴールド」 vs 「ザ・ゴールド」
・・・どうなるか、今年のビール戦争

 最近のビール市場は「第三のビール」や「発泡酒」で賑わってきたが、新聞報道によれば今年は「本格派ビール」が主導権争いをする年になるという。
 そして、売20年を迎えたアサヒの「スーパーゴールド」と、キリンが新たに売り出した「ザ・ゴールド」の競争が過熱しそうだとも報じている。
 そうなると、どちらのネーミングが「本格派ビール」にふさわしいイメージを伝えているかがその行方を占う鍵になるはずだ。
 そこで「本格派ビール」というイメージの表現度を比べるため、両語の音相分析を行ってみた。
 「ザ・ゴールド」からみてみよう。

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 表情解析欄を見ると、「本格派」のイメージを作る次の表情語(薄紺色の棒グラフ)
「暖かさ、安らぎ(P項)」 「安定感、信頼感(Q項)」 「高級感、充実感」(R項)」 「高尚さ、優雅さ(S項)」 「静的、非活性的(T項)」
をトップに置きながら、「ビール」をイメージさせる濃紺の棒グラフ
「シンプル感、明白さ(A項)」 「躍動感、進歩的(B項)」 「新鮮さ、新奇さ(C項)」 「若さ、溌剌さ(G項)」 「派手さ、賑やかさ(E項)」
を僅かに加えたものになっている。

次に「スーパーゴールド」はどうだろうか。

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 この語は、本格派ビールを表わす表情語(薄色グラフ)だけを立て、ビールを表す表情語は全くない。
 すなわち、どちらも「本格派」のイメージを明白に打ち出しながら、「ザ・ゴールド」はビールの実体感を僅かに捉え、「スーパーゴールド」は本格派がもつ格調や存在感だけを純粋に追う語となっている。
 この微妙な違いを、両語のコンセプトバリュー欄が、好感をいだく人の性別と年齢層で捉えている。
 前者ではそれらに大きな偏りがなク、大衆一般を捉えているのに対し、後者では本格的ビールの味にこだわる年配者ターゲットをおいているのがわかる。
 以上の分析からわかるのは、ともに高度な音相感覚を計算に入れた、いずれ劣らぬ優秀作ということだ。
 これらのビールの売れゆきは、今後の販売戦略にかかっているといってよいようだ。

2007年4月16日(月)
●音相論はどんな世界を捉えたものか

 ことばには、意味のほかイメージを伝える働きがあり、意味と音の伝えるイメージが同じ方向を向いたとき、そのイメージさらに明白となり、印象深いことばとなって伝わってゆく。
 ことばの音はそれほど大きな働きをしているのだが、感覚的なものが多く含まれるいめ、学問的には常に抽象論で終わっていて、現実のことばが持つイメージの解明などは到底不可能である。
 だが、大衆の音響感覚が高度に発達した現代では、現用していることばが伝えるイメージを具体的な尺度で捉える必要が痛感されるようになってきた。
 音相論はそういう必要から生まれたものである。
 この理論は意味とイメージの関係を数量的なもので解明し、それを元に実在することば(語)の良否を評価する技術だが、この理論が生まれたことで明らかになった新しい分野に次のようなものがある。

1.意味とイメージの関係を数量的に捉える手法を開発したこと。
2.イメージの客観価値を測る尺度として大衆の中に存在している「平均的感性」を用いたこと。
3.日本語のイメージを捉えるには、まず語彙の調査から始めなければならないが、その調査対象語に「現用されている和語」を用いる手法をとったこと。(これについては後述する)
4.語音が作るイメージを、+輝性(+B)、−輝性(−B)、および勁性(H)のコア(核・・・音価)で捉える手法を開発したこと。
5.ことばに含まれる「イメージ」のすべてを40shu の表情語に整理したこと。
6.表情を作る音の単位として、音素(26種)のほか順接拍、逆接拍、無声化母音、調音種比など、合計40の音相基(甲類表情)を捉えたこと。
7.音相基相互の照応から38種の乙類表情を捉えたこと。
8.複数の表情語の照応が作る「情緒」の体系を捉えたこと。
9. 表情把握の基本となる「特性検出項」を設定したこと。
10. 音価(BH値)計算の尺度となる標準値を定めたこと。

2007年4月16日(月)
●音相論が生まれるまで

 私は若いころ、長い間NTTの前身、日本電信電話公社の総裁室広報課でPR用ラジオ放送の台本を書く仕事をしていたことがある。 多くの台本を手がけてゆくうち、聴取者へのメッセージを印象深く伝えるには、意味だけでなく音が伝えるイメージでことば選びをしなければならないことに気がついた。
 しかしながら、それを知るには意味と音との構造的な関係を明らかにしなければならない。
 そこで、「人々が好んで使っていることば」の音を見てゆくと、それらは耳障りの良さだけでなく、意味や雰囲気(コンセプト)にふさわしい音を持った語であることを発見した。これが音相論との取り組む始まりだった。

 ことばの科学には意味や文法や音声のほか言語の形態や統辞構造など極めて広い分野があるが、人々が日常の言語生活で求めているのは、「この語はどんなイメージを伝えるか」、「あるイメージを伝えるにはどんな音を使えばよいか」など次元の異がるものであり、それは同時にことばの「美」への追求と深く関わるもののように思われる。
 すなわち、現実的なことばのイメージを捉えるには、言語関係の諸学のほか、美的なものへの取り組みが必のものとであることがわかる。そこで私は非才に鞭打ちながら、文芸や演劇、美術、音楽など種々の実作面にも手を染めることとなる。
 このような遍歴が理論を組み立てるうえで大きく役立った。
 例えば、色彩学の補色の理論からことばに隠れている逆接、順接の存在見つけたり、油彩画の実技の中から音相基の響き合いが作る情緒や他援効果などを実感的に理解できたりした。

 ことばの音相を思い始めたのは昭和26年(1951年)のころだったが、先人が残した資料は全くといってよいほどなく、教えを乞う人もいなかったから、一応の体系化が終わったのは40年近くを経過した平成2年(1990年)のことだった。

2007年4月16日(月)
●音相を現用の「やまとことば」(和語)で捉えた理由

 日本語の音相を捉えるには、具体的なことばを対象にした大掛かりな調査が必要だが、その調査にどういう単語を用いるかで、得られる結果は大きく変わるはずである。
 現代語の音相を捉えるのだから、いま使われている語を調査すれ場よいという見方があるが、ことばは長い歴史の中で作られたものだから、現代語だけを輪切りにして眺めてみても、その本質を取り出すことは不可能だろう。
 そんな考えに基いて、私は現在でも使われている「やまとことば」(和語)を調査対象語に選ぶこととした。
 和語は日本語の祖語として有史以前からこの地に住んだ数十億、いやそれ以上の人の感性から生まれ、長年にわたる陶汰(とうだ)を受けながら生き続けてきたことばであり、しかも現在使われている単語の75〜85%程度を占めていることばだから、音相を捉える上でこの上なくふさわしい語と考えたからである。
 そこで、「国語辞典」に掲載されている和語から「感情」を持つ語を取り出して、感情の傾向と使われている音相基との関係を調査することとした。
 しかしながら、その語に感情が含まれているかどうかは、視点を変えれば別の判断が生まれるものも少なくない。
 そのため、「感情」の定義の幅を種々変えて調査のしなおしを繰り返した結果、1289語の「感情語」が確定できたものである。

2007年4月16日(月)
●Q&A  ネーミングにおける意味の役割

 Q ことばは音が先導する時代になりましたが、これからのネーミングにおいて「意味」の役割をどう考えたらよいでしょうか。 (skc.m)

A 商標登録を申請しても、意味的なものが含まれる語はすでにほとんど登録されていて受理されないし、意味不明の西欧語が「音」が良いというだけでヒットしているものが多いなど、ネーミングは音への取り組みがは欠かせられない時代になっています。
 だが、ネーミングにとって意味の果たす役割の大きさは、これまでとまったく変わるところがなく、音の良さに意味の良さが加われば、その語はさらに輝きを増すのです。
 だがこれからは、「意味」の概念の幅を拡げる工夫が必要となるはずです。

 「セ・リーグ」、「パ・リーグ」の「セ」「パ」には「セントラル」「パシフィック」という意味との結びつきがあるから「Aリーグ」、「Bリーグ」と記号で言うよりも温かみや親しみ感がありますし、それだけに憶えやすくもなるのです。
 これからは、ラ行音や長音(ー)は「動くイメージを作る」という音相論の常識を頭に置きながらクルマの名に「R」や「ー」を使う工夫をしたり、沖縄地方にあるニノという果物で作った薬用酒の名に果実の「カ」を付け「ニノカ」という名を考えるなど、意味的な表現法の研究はこれからのネーミングの新らしい課題になることでしょう。

2007年4月2日(木)
●「トヨダ」から「トヨタ」へ・・・世界への飛躍に貢献したネーミング・パワー

 トヨタ自動車は3年連続1兆円超の最終利益をあげ、生産台数も昨年GMを抜いて世界一となった。
 「トヨタ自動車」の前身は「豊田自動織機」だが、1937年に独立し呼称も「トヨダ」から「トヨタ」に変わった。今でも「トヨダ自動車」と呼ばれることが多いようだが、「トヨタ」への改称が今日の隆昌に大きく関わっているように私には思われる。
 それは「ダ」と「タ」、濁音があるかないかの違いだが、音相的には「ダ」は存在感や重厚感を伝える「有声破裂音系」の音、「タ」は軽さや明るさを作る「無声破裂音系」の音だから、その違いが世間の人のイメージを変え、アイデンティティーや社員のマインドを変えるエン ジンとなっただろうことは疑う余地もないはずだ。
 このことを今少し具体的にしてみようと、音相分析を行ってみた。
 まず、「トヨダ」を見てみよう。
 (注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示すもの。
 濃い青・・・「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
 淡い青・・・「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、静的または非活性的なマイナス方向の表情語。
 中間の青・・・プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。

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 表情解析欄の高点部分で気品や高尚さを作る表情語「静的(T)」,「高級感(R)」,「安定感(Q)」,「安らぎ感(P),「優雅感(S)」を捉えているが、「クルマ」に欲しい現代感やメカニックなイメージを作る表情語「強さ(J)」、「シンプル感(A)」、「軽快感(F)」、「活性感(D)」、「個性感(K)」などが低いうえ、とりわけ強調したい「庶民性(M)」がゼロ・ポイントになっているなど、コンセプトの把握に大きな偏りのある語であることがわかる。

次に「トヨタ」を見てみよう。

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 表情解析欄では「庶民性、適応性(M項)」をトップに、近代的な雰囲気を作る「都会的(H項)」、「合理的(J項)」、「活性感(D項)」を高点に置き、クルマ表現に必要な気品や高級感を作る「安らぎ感(P項)」,「信頼感(Q項)」,「高級感(R項)」,「優雅感(S項)」,「静的(T項)」などを程よい加減で取り入れている。
 さらにこの語には、全体のポイント数を低目(最高50.0)に抑えたという良さがある。全体のポイント数を低めるとすべての表情が圧縮されるから、密度や奥行き感のある語になるが、「トヨダ」のようにポイント数を高めると、イメージが明白になる代わり、単純で厚みのない語になってゆく。
 「トヨダ」と「トヨタ」の音の違いを分析すると、「トヨタ自動車」が飛躍をとげた裏に「音相」という目に見えないパワーが存在していたことがわかるのだ。

2007年4月2日(木)
●単音だけでことばのイメージは捉えられない

 書店で「日本語はなぜ美しいのか」という本を開いてみ他。その中にことばが作るイメージは、音の単位である子音、母音が持つ個々のイメージを集めるだけで得られるように書いてある。
 この方法で一部のイメージが捉えられる語もないではないが、「サ(sa)」「ク(ku)」「ラ(ra)」という単音の表情を集めただけで、「さくら(桜)」という意味を持つ語のイメージを捉えることはできないし、この方法では「さくら(桜)」と「くらさ(暗さ)」のイメージ差を説き明かすこともできないはずだ。
 意味を含んだ「ことば」のイメージは、破裂音、摩擦音、有声音、無声音、逆接拍、順接拍、無声化母音などの単位(・・・これらを音相基という)に下げて捉えなければ得られるものではないのである。
またイメージには、音相基同士の響合いから生まれるものや、いくつかの表情語の集まりが作る「情緒」もあり、これらを総合することで 始めてことばのイメージは捉えられるのだ。
 ちなみに、音相基の数は40種、音相基が響き合って生まれる表情は38種、表情語の集合から生まれる情緒の数は、現在明確に捉えているものだけで44種ある。
 前項で「トヨダ」と「トヨタ」の違いを述べたが、イメージをあれほど大きく変 えた原因を「ダ」と「タ」の違いだけでどうして説明できるのだろうか。

 単音でイメージを捉える試みは、鎌倉時代に音義説というのを説いた人がいたが、客観的な根拠説明ができないところから近代言語学の発達と共に姿を消した。
 そういうものを今なぜ新たな発見のように言うのだろうか。現代のことば科学のひ弱さを感ぜずにはおられない。

2007年4月2日(木)
●大衆の感性を知らずに、ネーミングは作れない

 若者たちの間で、漢字の読めない人が増えている。
 だが彼らは字が読めず意味がわからなくても、日常の会話などではあまり不便を感じていない。それは彼らがことばの音からその語のイメージを捉える感性を持っているからだ。
 「厳格」(げんかく)ということばの意味を知らなくても、語音から伝わるイメージで「厳しさや威圧感」のようなものを感じたり、「アネモネ」がどんなものかを知らなくても、語音が伝えるイメージでやさしく暖かいものが思い描けるからである。
 そんな感性があるからこそ、「ルイビトン」、「ディオール」、「アルマーニ」、「ティファイー」・・・など人の名でできた意味をもたないブランド名にも、美や快感や西欧風のモダニズムなどを感じることができるのだ。
 昭和の初め頃、「ランデブ−」、「銀ブラ」、「モボ、モガ」などということばが大流行した。これらはみなモダンで明るい意味を持ったことばだが、暗く沈んだイメージを作る有声音ばかりでできている。
そのような矛盾した語が10数年もはやり続けたということは、当時の人がことばの音にいかに無関心だったかがわかるのだ。

 それに比べ、今の流行語はどうだろうか。
 「イケメン」、「おもろい」「チャパる」、「カッコいい」「デパチカ」、「チクる」、「超〜」、「メチャ」、「激〜」など、日本中でうけている語はみな意味にふさわしい音をもっているし、反対に「ビッグ・エッグ」、「E電」、「DIY(ディ−アイワイ)」、「WOWOW(ワウワウ)」のような、音の響きの悪い語は、発表になったその日から進んで口にする人がいない現代人はこのような優れた感性をもっているから、新しいネーミングに接したときも、音から伝わるイメージと意味(コンセプト)との間の関係性の程度を見ながらその良し悪しを評価する。
 これからのネーミングは、そのような大衆の感性を知らずに作ることはできないのだ。

2007年4月2日(木)
●Q 記号ネーミングをどう考えたらよいか

 今、新しい社名を検討中ですが、良いものがなかなか見当たらず、いっそアルファベットを並べたUFJのようなものにしたらという案もでています。最近多いこの種の記号ネーミングを、どのように考えたらよいのでしょうか。(東京キッド)

A .アルファベットの組み合わせなどでできたネーミングも、その多くは意味のあることばが元でできていますが、一般の人にそういう意味はわからないから、誰もがそこに記号の羅列という味気なく冷たいものを感じることでしょう。 
 しかしながら、この種の語にも「ユーエフジェー」のような音がありますから、その音相が会社のイメージ(コンセプト)を適切に表現してさえいれば、ネーミングとして成功させることは可能です。
 そういう例として「IBM」「BMW」「NHK」などがありますが、このような語を広く世間になじませるには、長期にわたる反復周知が必要で、多額の費用を覚悟しなければならないでしょう。
 やむをえない場合もありますが、この種のネーミングはできることなら避けることが賢明のように思います。

2007年4月2日(木)
●Q 音相論では「東京」を、なぜ「トーキョー」で分析するのですか

 A .日本語の表記のし方は「現代かなづかいの要領」(昭和21年、内閣告示)で定められています。これは文字で書くときの表記法を決めたもので、「東京」は「とうきょう」と書くこととなっています。
 だが日常の会話では「トーキョー」と発音しますし、この音でお互いがイメージを伝え合っています。
 したがって、音のイメージを捉えるには、発音どおりの音「トーキョー」で行なうのが正しい方法といえるのです。

2007年4月2日(木)
●ネーミングの「分析、評価」を行います。

 当研究所では、社名や商品のネーミング案をコンピューターで解析し、日本人の平均的感性を基本にその良否や問題点などを評価するコンサルタントを行っています。
 「分析表と評価の実例」欄にその実例が出ていますので、ご参照ください。
ここをクリック

主な分析評価料      (注)いずれも消費税を含みません
(1) 個別評価の料金  (1語ごとに本評価するとき)
 ・本評価料      1語ごと     30,000円

(2)総合評価の料金 (大量の案を絞り込むとき)
 ・コンセプト調整費  1コンセプトごと  70,000円
 ・ラフ分析料      1語ごと        2,000円
 ・本評価料       1語ごと       30,000円

 (参考)【総合評価(2)の場合の費用例】
(例1) コンセプト数1、ラフ評価数10語、本評価語 3語の場合・・・・180,000円
(例2) コンセプト数1、ラフ評価数20語、本評価語 5語の場合・・・・260,000円
(例3) コンセプト数1、ラフ評価数100語、本評価語10語の場合・・・570,000円