音相マガジン

4月の記事一覧

2004年04月30日(金)
音相評価の難しさ
2004年04月21日(水)
音相論が捉えた『蛇にピアス』の秘密    
2004年04月06日(火)
日本語の美しさを作った膠着語

4月の記事

2004年04月30日(金)
音相評価の難しさ

・・「オンソニック体験版」 利用上のご注意・・・  

私が、ネーミングの分析評価を依頼されたとき、その商品のコンセプトが何であるかを納得のゆくまで質問し、それを整理したうえで分析表に現れた10のデーターを1項目ずつ読んで、その中のどの項目を採用すべきか判断する。

報告書に記載する評価文はわずか10行ぐらいのものにすぎないが、それをまとめるまで、1分析に4〜5時間、いや、1日以上を要することも少ないない。

ことばの評価を行うには種々の見方とさまざまな感性的視点が必要で、底には相当の修練を必要とする。

皆さんに提供している体験版は、皆さんに音相分析の1面を覗いていただくためのものであり、評価の対象となるデーターのごく一部(約5%)をお示ししたものにすぎません。

この結果だけを見て簡単に評価をなさらぬよう、とくにご注意ください。再度お願い申し上げます。

2004年04月21日(水)
音相論が捉えた『蛇にピアス』の秘密

芥川賞を受賞した金原ひとみの「蛇にピアス」を読んで、現代小説に底流している新しい傾向のことを考えた。

この小説は、現代若者の世界を極限で捉えようとした作品で、さまざまな評価もあろうが、私が直感したのは作品のイメージを作っている題名やキーワードたちが、作者の高い音相感覚で選ばれていることへの驚きだった。
 
  それらを具体的なもので取り出してみよう。
 
「蛇にピアス」という語は異常さや奇怪感をストレートに訴えてくることばである。そのようなイメージは、無声化母音(注)とイ音の多用が照応して生まれるものだが、そうした「異常なムード」の中に「爽やかさ、軽やかさ、高級感、躍動感」など、作品のすべてを象徴するような音がちりばめられた見事な題名だ。
 
また、作品中に多出するキーワードが、「今日」という時代や風俗を象徴する音を極めて多く持つ語で作られている。
 
「今日」を象徴することばは、次の表情語を多く持つ語によって生まれてくる。

    群  表情語          群  表情語
    A 明白さ、シンプル感    B 進歩的、躍動感
    C 新奇さ、新鮮さ       D 動的、活動的
    E 賑やかさ、派手さ     F 軽やかさ、軽快感
    G 溌剌さ、若さ        H 都会的、現代的
    J 合理的、現実的      K 個性的、特殊的
    L 鋭さ、強さ          M 庶民的、適応性

すなわち、キーワードを分析して得た「表情欄」の上位(6位以内)にこれらが多くもつ語ほど「今」を強く表現した語といってよいだろう。

文中からキーワードとなる語を取り出して音相を分析したら、次のような結果が出た。
  (括弧内は表情欄の上位6位以内に含まれているこれらの群とその数を示す)

   スプリット・タン(MHBFJM・・・6中6)
   身体改造(AKMED・・・6中5)
   タンクトップ(DHBJFBA・・・6中6)
   ムスク(MKFHJ・・・6中5
   デザイヤ(EMAK・・・6中4)
   ヒップホップ(DHJMB・・・6中5)
   刺青(いれずみ)(MEAKF・・・6中5)
   パンク(MBDAHGH・・・6中6)
   アマ(FMADEJ・・・6中6)
   シバ(AMEKDF・・・6中6)
   マキ(AMEKDF・・・6中6)
   ユリ(AKML・・・6中4)
   キヅキ(AMEKDG・・・6中6)
 
どれもが「今」をきわめて明白に表現した語であることがわかるが、それと同時にどれもが「高級感、優雅感、爽やかさ」など「情緒性」を持たない語であることも示している。

ちなみに、スプリット・タンは舌を2つに割って蛇舌にする現代の異様な風俗、ムスクは香料の名、デザイヤは店名、パンクは若者の異常な装いや化粧を指す語。

アマ、シバ、ユリ、マキ、キズキは登場人物の名。どれもが今日や現代をむき出しにしたような音相をもった名前だが、主人公の「ルイ」だけは「現代性」(6中3)だけでなく、孤立感、鋭さ、優雅さ、暖かさなどを含んだ複雑な人の名がつけられている。

小説には普段あまり興味のない何人かの人に読ませてみたら、誰もが「不思議なことに息もつかずに読んだ」という。
「今日」という瞬時が作る現実からこの異様な風俗や事件を切り取って構成した金原ひとみのドラマツルギーの確かさと、音相感覚の高さに対し私は深く敬意を表したい。

この作品を批評した多くの評論家や作家たちも口をそろえて「音的魅力」を解いておられるが、その魅力の実態を私は音相論によって説いてみた。

あなたも、この別欄の「オンソニック体験版」でこれらキ−ワードが作る不思議な世界を実感してみられることをお勧めしたい。

※注 無声化母音とは     
母音はすべて有声音(声帯を振動させて出す音)だが、特殊な子音のあいだに母音「い」または「う」が入ったとき、無声音の発音となり、息は出るが音にならない音となる。これを無声化母音という。「蛇にぴあす」の語では、「に」「す」がこれに該当する。無声化母音はそれ自体は軽やかで明るい音相をもつが、イ音と照応すると異常感や奇怪感を作る音になる。

2004年04月06日(火)
日本語の美しさを作った膠着語

真言宗の開祖、空海が書いた書物に「声字実相義」(しょうじじっそうぎ)というのがあります。

「声発して虚(むな)しからず、必らず物の名を表するを号して字という。名は必らす体を招く。これを実相と名づく」 事物がもっている実体とそれを表わすことばは一体のものだという「言事融即の説」を説いたものです。 声字とは記号的な言語ではなく、異次元の宇宙的存在エネルギーとしてのことばを指すもので、事物がもつ実体(実相)は、音声言語(はなしことば)で代表されることばによって示されると説いたものです。

「音相」は、このような背景から得たことばです。